虫のいい日々

あぶはち取らずと言われても、極楽とんぼで過ごしたい。
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ナオミ・ノヴィク『テメレア戦記 III 黒雲の彼方へ』
ドラゴンが戦闘に参加しているナポレオン戦争時代を舞台とした、架空戦記シリーズの3作目。

前作の最後で、これは英国に戻ったら一波乱ありそうだ、と思わせられる決意を表明したテメレアですが……なんと本書をいくら読み進めても、ぜんぜん、英国に戻れてません。

それどころか、中国に来るとき乗ってきたドラゴン輸送艦は火事で使えなくなり、英国からローレンス宛てに届いた新たな指令を遂行するには、未知の陸路を延々と進んでゆくしかない状況。

その新たな指令とは――イスタンブールに赴いて、英国空軍が買い取ることになったドラゴンの卵3つを受け取り、それぞれの担い手となる士官のもとに届けること。しかし、もっと近い英国空軍駐屯地があるはずなのに、北京に派遣されていたローレンスにイスタンブール行きが命じられたのは何故? 本国側の状況が皆目分からぬままの、不安な出発です。

今回の旅には、出自を理由に不当な扱いを受けてきたために屈折した性格になってしまっている通訳兼案内人のサルカイや、中華料理の味を覚えたテメレアのために雇い入れられた料理人ゴン・スーなどの新メンバーが加わります。しかしその一方で、これまでテメレアおよびローレンスと苦楽を共にしてきた搭乗クルーが失われるというショッキングな事態も発生。

多数の言語を操り、膨大な水と食料を必要とする巨大なテメレアをどうやって砂漠越えさせるのか、といった難題をてきぱきと解決するなど、ローレンスたちの旅に多大な貢献をする一方で、どこか信用ならない雰囲気をごまかそうともしないサルカイの人物造形が、興味をそそります。

野生ドラゴンの群れとの遭遇および交流が描かれている箇所では、これまで以上に本作の世界観がはっきり見えてきた感じでわくわくしました。テメレアたちの行く手に暗い影を落としているアルビノのドラゴン、ティエンの恨みと執念もじわじわと怖く、今後の展開が非常に気になります。

英国、プロイセン、フランス三国三様のドラゴン戦隊の組織の仕方の違いが、具体的に説得力を持って描かれており、本当にリアルに感じられるのにも感嘆。ナポレオン本人も、少しだけ登場。いやはやこのナポレオンは、ドラゴンの扱いひとつ取っても思考が柔軟で敵に回したらほんとに怖いキレ者ですよ!

そして相変わらず、ローレンスはいつも気を揉む苦労人なのでした。

ドラゴンが人間に従属するものではなく尊厳あるパートナーとして遇される中国に残ることはせず、敢えて英国に戻って仲間のドラゴンたちの待遇改善を求めていくと決意したテメレアですが、人間同士でも「奴隷制の是非」をめぐって論争がおこなわれているような時代。ましてや戦時中。軍の上官たちが耳を傾けてくれるはずがない、という現実が痛いほど分かっているローレンス。

純粋に理想を語るテメレアの気持ちを思うと、むげに否定はできないが……という彼の内心の葛藤は、そのまま読者の葛藤でもあります。ただでさえ、悩みごと満載の旅なのに!

なかなか先行きが見えてこない旅と圧倒的に不利な戦闘が続いた末に、思いがけないかたちで風向きが変わる終盤の展開は、とっても爽快でした。しかし訳者あとがきを読んだ感じでは、まだまだローレンスとテメレアは、英国に戻ることはできないようす。

テメレアも作中でちょっと言ってたけど、第1巻でテメレアと一緒だったマクシムスたち英国ドラゴン勢に、そろそろまた会いたいなあ。

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有川浩『フリーター、家を買う。』
タイトルから想像していたのとは、ずいぶんと違うお話でした。

どんなのを想像していたのかというと……最後まで読んでしまったあとではもう当初のイメージはぼやけてしまいましたが。たぶん、フリーターなのにひょんなこと(ってなんだ?)から住宅ローン背負うことになってしまった主人公が資金繰りに悩みつつ四苦八苦するさまを追いながら、日本の住宅事情やローンの仕組みに関する豆知識なんかも楽しく学べちゃう青春どたばたコメディ、みたいなのを思い浮かべていたんじゃないかと。

実際には、読む前の予想よりもはるかに、主人公とその家族が直面した事態は深刻なのでした。そしてまた、家を買うことは話の発端ではなく、ゴールであり目指すべき生活の象徴なのでした。

しかし、フリーターどころか物語の冒頭ではぐだぐだの自己中ニートに成り果てていた主人公が、徐々に強くなって世間の荒波に乗り出していけるようになってきてからは、とんとん拍子に物事が転がり始めます。この辺がね、なんだかもう夢のよう。性善説にもほどがある(笑)。

でも、この主人公、たしかにすごく頑張っているんですよね。そして、物事がどんどんうまく行っちゃう後半の展開は、その頑張りが周囲に正当に評価されたからなんですよね。

だから。決して諦めずに、愚直なまでにこつこつと真面目に前向きに頑張りつづけていれば、なんかきっと、そのうちいいことあるんじゃないか……そんなことが、このお話を読んでるあいだは、信じられてしまう気がしてくる。そしてまた、そんなふうに信じて生きていくことも、悪くないなあって思えてきてしまう。

少なくとも、こんなふうに都合がいいのはフィクションだけだよって、現実世界で経験している物事の転がり方のぎこちなさや間の悪さに思いを馳せて落ち込むよりは、能天気に「こういうのも悪くないなあ」って思っておくほうが、ずっとお得だよね、と、なんだか自分に言い聞かせたくなる感じ。
Posted at 22:07 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark
2010年4月の読んだものリスト

  • 二ノ宮知子『のだめカンタービレ』第24巻《アンコール オペラ編》(講談社,2010年4月)
Posted at 21:05 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark
林望『節約の王道』
あのリンボウ先生が、不景気な時代の流行に乗って「節約本」を!? という野次馬根性で手に取った1冊。すみません。しかし半ば予想していたとおり(してたんか!)、自分ちの節約生活の参考には、あまりならないような気がするのでした。

まあどのみち、日常生活なんてものは、各家庭である程度なりゆき的に方針が定まっていくもので、メンバー全員が特に困ってなければそれでいいんじゃないかなーと思ったりしています。

ですから本書は、リンボウ先生のライフスタイルとそれを支える思想を、ふむふむと覗かせていただいて、いつもの独特な語り口とキャラクターを楽しめばよいのではないかと。いやもちろん、すごく参考になるわってかたもいらっしゃるとは思うのですが。

じつは、下手にハイリスクな一攫千金狙いなどせず地道に暮らして、見栄を張ったり無駄遣いしたりはしないものの使うべきところで変にケチらず……という、大まかなところだけ汲み取れば、リンボウ先生のおっしゃることはかなり私の日頃の感覚にも近いのです。

とは言えやっぱり、男性のスーツの身の丈に合った適正額は「一度に三着買ってもふところが痛まない」額である……と書いてある同じ章に、ブランド物を買うより30〜40万円くらいで仕立て屋さんのオーダーメイドにしたほうが経済的、みたいな話があったりすると、「ってことはリンボウ先生は、40万×3を一度に出して懐が痛まないのかー」と、ついつい下世話に計算して感心しちゃったりする。つまるところ私は、俗っぽさを捨てられない下層の庶民なのであります。

支払時に小銭をちまちま出すのはしみったれていていかん、そして男たるもの、みみっちく小銭入れなんか持つものではない、50円10円1円と言った細かいお金はコンビニのレジ横にある募金箱にでも入れるべし、みたいに書いてあるのを読むと、ああ先生はお会計1524円ですと言われて2024円を出したらおつりに500円玉がもらえたときのささやかな喜びと達成感をご存知ないのだなあとしみじみしたりもします(まあでも別にそんな喜びは知らなくても困りませんね、よく考えたら)。

たとえ懸命に選んでくれたものでも実際には微妙に好みと違ったりするというのを身を持って経験しているので、普段、食品以外のプレゼントはしないのが信条だとお書きになる先生。しかし同じ章で、結婚式のご祝儀などは、周囲と打ち合わせまでして相場の金額を包むのは卑しいことだから、披露宴の当日になる前に値段の分からない骨董品を贈るとおっしゃる先生。

結婚祝いでも、もらった人が骨董好きじゃなかったら(はたまた、もらった骨董がいまいち趣味に合わなかったら)けっこう持て余す可能性があると思うのですが。その辺はおそらく、先生の交友範囲のなかなら骨董を愛でるための風雅な心と新居の空きスペースがないなんてあり得ない、みたいな話になってくるのでしょうか。

なんにせよ、いろいろと妥協せず、世間の常識に流されることなく、ご自分が合理的とお思いになる道を一貫して突き進んでいらっしゃるようすが、第三者としては読んでてとても面白くて。状況によって態度を変えたりせず筋を通しているからこそ、そしてなによりリンボウ先生だからこそ許されていることも、たくさんありそうです。

先生が説く節約道とは、結局のところ、たとえば披露宴の受付で堂々と「お金は出しません」と宣言してもむしろありがたく思われるような、そういう人徳を身につけるということなのかもしれません。
Posted at 12:57 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark
有川浩『キケン』
カタカナで書かれた題名、これだけを見れば「キケン」とは「危険」なのかしらと思ってしまうのですが、実際にはキケンとは某県某市にある工科大学の「機械制御研究部」の略称なのでした。そしてまた、そのキケンはまさしく「危険」なクラブでもあるのでした。

筋金入りの火薬大好き人間でユナ・ボマーの異名をとる部長・上野と、迫力満点で大魔神と呼ばれる副部長・大神の2回生ふたりと、その後輩である大らかさが魅力の池谷、神経細やかなしっかり者の元山を中心に、やたら賑やかで豪快で全力投球な部活動のようすが語られます――いまはもう卒業して社会に出て結婚までしてしまった、あるキケンOBの、思い出話として。

テンポよくて面白かった! これじつは、私より先に、理系学部出身者である夫が読了して馬鹿ウケして、「文系人間にはこの面白さはわかんないかもしれないなー」なんてのたまってくれちゃってたんですが、文系の私もしっかり楽しく読みました。

あとがきで、著者自身が「女子には直に観測できない世界」だと断言していますが、まさしく「正しい男の子小説」という感じ。

そしてまた、こういうドタバタって、渦中にいるとただただ夢中で、冷静に面白さなんて認識してらんないと思うんですよね。むしろ「工学系」かつ「男の子当事者」だったことのある夫が楽しく読んだというのが、意外に感じられたほど、外から観察しての楽しさ、という印象を受けました。

あ、だからこそ「回想」形式であるという、ワンクッションが必要だったのかも。

個人的には、ユナ・ボマー上野さんが「ダークサイドに落ちずにまともに就職してあまつさえまともに結婚」するまでの過程を知りたいです。番外編とか続編で書いてくれないかな?(単行本発売後、雑誌に番外編が載ってたというのを小耳に挟んだんですが、未チェック。)

私自身が若い頃に「あの人はすごいなあ、自分の世界が確立されちゃってるなあ」と思って見ていたような人は、わりといまでも社会の一般的価値観に迎合することなく自分の道を突き進んでる気がするので。こんなキケンな人が、ありきたりな人生コースにのっかって、あまつさえ「当時の上野さんは完全にイカレてたんだって」とか過去形で語られてしまうなんて、嘘だろーって感じがします(笑)。いや絶対、いまでも密かになんかすごいことやっててほしいわ。

そんなふうに思ってしまうのは、私自身がいい歳して大人になりきれていないせいなんだろうか。
Posted at 00:18 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark

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