虫のいい日々

あぶはち取らずと言われても、極楽とんぼで過ごしたい。
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2017年3月に読んだものメモ
  • 乾石智子『紐結びの魔道師』(創元推理文庫,2016年11月/表題作のみ『オーリエラントの魔道師たち』〔2013年〕初出)
     数年前の短編集から表題作だけ独立させて、さらに続編を足したもの。思えば初めてこの作者の本を読んだときには、キャラ立ちよりも世界の構築で読ませる、「世界萌え」させるタイプの人かなーという印象を受けたんだけど(そしてそこが好きだったんだけど)、その後けっこうキャラの個性でも読ませるなあと感じ出して、そしてこの連作短編集では、とにかく主人公の、魔道師に見えない物理的な戦闘能力がやたら高い魔道師が魅力的。ただ、それはやっぱり、土台になる世界観とか、魔道のしくみとかがしっかりと存在感を持っているからこそですよね。

  • 岸政彦『ビニール傘』(新潮社,2017年1月)
     表題作は社会学者である著者が初めて発表した小説作品にして第156回芥川龍之介賞候補作。似通っているけど少しずつ違ういくつもの人生を重ね合わせて、多層構造にして見せられた感じ。最終的には個々の層が一体化してたゆたいながらどこかへ吸い込まれていったような印象。生活のなかの質感や匂いがありありと感じられる描写と、大阪の街の具体的な地名が生々しい。
     併録「背中の月」は妻に先立たれた主人公視点で、本当によいカップルだったふたりについての回想と、残された彼の過ごす日々がゆっくり、淡々と薄まってほろほろと崩れていくさま。大阪弁での夫婦の会話が地に足のついた幸せをかもし出していて、喪失感が胸に迫る。


  • 松田青子『おばちゃんたちのいるところ』(中央公論新社,2016年12月)
     生と死の境目があっけらかんとぼやけて、明るくパワーがあって前向きな死者たちと、なにかと息苦しい世の中でもなんとか頑張ってる生者たちが共存する世界。独立したひとつひとつの短いお話が、時にははっきりと、時にはゆるい一点でさりげなくつながっていて、リンク箇所を探しながら読むのも楽しい。それぞれの短編には落語などの「元ネタ」があるんだけど、私の教養のなさのせいで全話についてアレンジ具合を味わいつくすことができず申し訳ない。でも元ネタ分かってなくても面白いです。

  • 米澤穂信『いまさら翼といわれても』(角川書店,2016年11月)
     久々の「古典部」シリーズ。きっと見過ごされたままでも表向きにはなんの波紋も生じなかったかもしれない小さな矛盾だけど、当事者の心は深くえぐるようないくつかの真相。青春はしんどい。これ、ここまで読んできてこのメンバーと彼らの学校生活にすでに愛着があるから余計にしんどいんだろうなあと思ったりした。みんなのこれからを読者が見届けることは、果たして許されるのだろうか(つまり、著者はどこまで彼らの今後の人生を書いてくださるおつもりなのだろうか)。

  • 岸政彦・雨宮まみ『愛と欲望の雑談』(ミシマ社,2016年9月)
     去年、読みそびれているうちに雨宮さんの訃報があって、ショックでますます保留しちゃっていたのですが、今月は岸先生の『ビニール傘』を読んだので、その勢いが残っているうちにと手に取りました。互いに尊重しあっていて、言葉を大事にする仕方の方向性が近しいおふたりだから、時に意見が合わなくても、真摯に語り合うことで和やかかつ刺激的な対談として成立しているのかなと思った。
     雨宮さんは、私にとっては、いつも途中までは「分かる分かる分かるめっちゃ分かります!」ってうなずくんだけど、そこから「え、それでそっちへ行く!?」みたいになっちゃう作家さんという印象で、でもそこをなんとか理解したいと思わせられる文章をお書きになるかたでした。この対談を読んでも、「あ、私とは根本的にタイプが違う人だ」ってとこがいくつも出てきて、でもすごく魅力的なんですよね。たぶん私には、雨宮さんみたいに自分を追い詰めるほどとことん突き詰めて考える素質がなくて、しかも考えずに動いて人生なんとかなってきちゃったんだよな。雨宮さんが送り出す鋭く繊細で硬質な(と私には思える)言葉を、岸先生がやわらかく受け止めて投げ返している雰囲気がよかった。


  • 獸木野生『PALM 39 TASK IV』(新書館,2017年3月)
     アンディ奪還のため暴走するジェームスを中心に、さまざまな人々のそれぞれの思惑が動く巻。そしてここまで来ても本当に今後の展開が読めない。ひとつ思ったのは、「オールスター・プロジェクト」のラスト(1991年初出、PALM 14)で、作中時間における主要キャラのずっと先の未来が語られたとき、アンディの最期があんなふうだったのは、今回のこの巻で受けた仕打ちのせいなのでは? ってこと。本来ならこの時点で彼は死んでいたのが、分け与えられた命のおかげで生きながらえていたけど、とうとうストックが尽きて、その時間のなかでは謎とみなされる過去の死因で息絶えることになったのでは? いや、ぜんぜん違ってて、今後そのへんの説明も作中でなされるかもしれないんだけど。
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2017年2月に読んだものメモ
  • 新井素子『通りすがりのレイディ』(出版芸術社,2016年9月/親本:集英社文庫コバルト・シリーズ,1982年)
     シリーズ2作目の改訂版。巻末書き下ろし短編は同僚の中谷くん視点。本編中では(主人公の眼中にあまりないせいで)キャラの見えづらかった彼の、けっこうめんどくさい規範に縛られめんどくさい思考に陥っている側面が語られる。
     先月、シリーズ1作目の改訂版を読んだときに「価値観が昭和なのでメタ的に読んでしまう」という話をしたんだけど、本作でもちょくちょく引っかかりはする。そして、初めてこれを読んだときには特に引っかからなかったんだよなあというところに、時の流れと社会の変遷、自分の意識の転換を見る。いっそ、旧バージョンではビデオテープだったのを「超小型ディスク」に変更するとかしないで、当時のまま残して、はっきり古い作品だといま初めて読んだ人にもすぐ分かるようにしたほうが全体のバランスよかったかもしれない(異論はあると思いますが)。今後ディスクも廃れそうな気がするし。


  • 新井素子『カレンダー・ガール』(出版芸術社,2016年11月/親本:集英社文庫コバルト・シリーズ,1983年)
     シリーズ3作目の改訂版。書き下ろし短編は、熊谷さんが水沢総合事務所に入るまでの経緯。本編では最も常識人のように見えていた最年長の彼もなかなか頑固かつマイペースでそれゆえ属する場所を選ばねばならぬ人であった、という。
     ずっと言ってる、登場人物の感覚が昭和っぽい問題については、だんだんむしろ、現在の情勢に鑑み、日本社会が未来に向けて古い価値観へのバックラッシュを推進しつつガラパゴス状態を続けていく展開も完全否定できないのでは? 世界的にもどんどん民族的な分断が進んで、このシリーズ内のように、21世紀初頭の東京ですら比較の問題で人種のるつぼに見えちゃうほど日本人で固められたコミュニティが、宇宙進出後にも存在しうるのでは? この作品世界は一周まわってSF小説的にアリなのでは? という気持ちさえ湧いてきた。
     それに思い出せ私、これはもともと、80年代にハタチかそこらだった著者がドリームを詰め込んだ、コバルト文庫の少女小説だったんだぞ。当時のマジョリティな乙女の萌えツボは、当時の世間一般的な恋愛・結婚観に沿ったかたちでないと、刺激できなかったであろうよ。少なくとも当時少女だった私はこのシリーズが大好きだった。


  • 新井素子『逆恨みのネメシス』(出版芸術社,2017年1月/親本:集英社文庫コバルト・シリーズ,1986年)
     シリーズ4作目の改訂版。書き下ろし短編の主役は麻子さん。「レイディ」事件の前日譚部分の時期、太一郎を失った(と思われた)所長のためにご飯を作る話。多彩多芸で有能かつ一途な彼女にかかると、どんどんスケールが単なるお料理の範疇を逸脱していく。
     初出の年を確認して、本編が前作からわずか3年後の発表であったことに驚いた。記憶では、3巻と4巻のあいだはもっともっと長く期間が空いたような気がしてた。というか、当時はまさか4作目が出るとは夢にも思っていなかったほどだった。若い頃の体感時間ヤバいな! ここまでの3作の伏線回収が始まる巻。
     最初にこれとあとに続く最終巻を読んだときは、前3作での、若年向け作品にありがちかもしれない主人公にとって妙に都合のいい展開や、主人公の天然おひとよしな性格そのものをストーリー上のキー(しかもSF的な)にしてしまうという、ある意味「開き直りかよ!」ともとれる力技に、やられたなーと思ったことを覚えている。


  • 今村夏子『あひる』(書肆侃侃房,2016年11月)
     第155回芥川賞候補だった表題作のほか「おばあちゃんの家」、「森の兄妹」の計3篇を収録。いずれの作品も、明確には口にされない暗黙の了解的な人とのつながりや相手への期待が、暗黙のままであるが故にすれちがっていく不条理へのもどかしさや物悲しさ、そしてそれらに対する淡々としたほの明るい受容の話として記憶に残った。

  • J. K. Rowling, Jack Thorne, John Tiffany "Harry Potter and the Cursed Child (Special Rehersal Edition Script) [Kindle Edition]"(Pottermore, 2016年7月)
     去年わりと発売直後に買ったんですが、結局、日本語訳が発売されたあとになっても放置してしまっていた。や、その……なんか怖くて(なにがだ)。
     さて、読了後の感想は。萌えどころはたくさんあるんですが、すごく正直なことを言うと、最初に思ったのは「ここ十数年間ファンフィクライターたちが鋤や鍬でちまちまと耕していたところを原作者が公式展開という名のブルドーザーでドドドドドーッと掘り返してガーーーッと巨大ローラーでならし固めていったわ!」でした。ハリーの息子アルバスとドラコの息子スコーピウスが親友同士に、しかも周囲から疎外されて追い込まれ親世代のハリーとロンなどよりずっと互いに依存的な親友同士になっていったりとか。「父親のお手本」を持たないハリーが息子との断絶に悩み、あのヘタレな意地悪キャラだったドラコのほうがむしろはっきり愛情を示せる父親だったりとか。そもそもドラコが完全に「いいやつ」側だったりとか。時間を逆行して改変された世界を生きる(そして大人気キャラだったあの人の再登場)とか。大人になったドラコが少年時代のハリーたちへの羨望を吐露するとか。いろいろいろいろ何度も「あ、これファンフィクのアーカイブサイトにありそう」って思った。あと、旧作で、セドリック・ディゴリーの死の扱われ方がずいぶんあっさりしてるよな、実際ハリーはどう思っていたの? っていうところも、多くのファンが自由な妄想の入る隙間を見出してきた部分であったかと思うのですが、そこも原作者ががっつり埋めてきたよ!
     しかしそうやってツッコミ入れつつ、作者がいまでもこの世界にこんなにも深い愛情を抱いているのだということが伝わってきて嬉しくもあった。
     〔和訳版『ハリー・ポッターと呪いの子 第一部・第二部 特別リハーサル版』(訳:松岡佑子)〕
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2017年1月に読んだものメモ
  • Shanna Swendson "Paint the Town Red (Enchanted Universe Book 1) " (NLA Digital LLC, 2016年12月)
     「(株)魔法製作所」シリーズのスピンオフ短編。電子書籍で無料配布中でした。MSIのセキュリティ担当、ガーゴイルのサムによる一人称で、ケイティのミッションを支援してないときのお仕事中のひとこま。なかなかハードボイルドな語り口。

  • 新井素子『星へ行く船』(出版芸術社,2016年9月/親本:集英社文庫コバルト・シリーズ,1981年)
     改訂版。巻末に猫のバタカップがどうやってあゆみちゃんに飼われるようになったかが判明する書き下ろし短編あり。この短編はシリーズ最後までの展開を知ってる人だと「ああ、なるほど」って思うやつですね。宇宙移住が実現している未来の話なのに、いろんな価値観とかがやっぱり「昭和」だよなって思う部分が目について、なんだかメタっぽい読み方をしてしまった。コバルトで読んでた頃のこととかも思い出されて懐かしい。

  • 植本一子『かなわない』(タバブックス,2016年2月)
     写真家の日記その他(主にブログ再録)。ご夫君はミュージシャンで、小さいお子さんふたり。日々の暮らしのこまごまとした話の率直で繊細な描写に共感するところと、芸術家夫婦だからか知らんけど破天荒だなーと感じるとこと。しかし切実さも伝わる。特に途中からは終盤にかけて予想外の展開になっていって、ここまで公開しちゃって大丈夫なのかと心配になるほどなんですが、奇妙な迫力で読ませる。今月末発売の新刊の試し読みページを見てみると、また大変なことになってるみたいで。

  • 温又柔『台湾生まれ 日本語育ち』(白水社,2016年1月)
     最も自在に使えるのは日本語だけど法的な日本での立場は外国人で、大きくなってから学校で中国語(普通话)を習い、ご両親は台湾語(閩南語)と中国語(台湾國語)を混ぜて話し、しかしお祖父さんお祖母さんは歴史的経緯の結果として日本語が堪能という複雑な言語環境にいる著者が、国や言語について突き詰めて考察していくエッセイ。さまざまな葛藤を乗り越えてのものだというのは踏まえつつ、軽やかかつ柔軟にボーダーラインを越えて自分だけの言語を獲得している感じがちょっと羨ましい。私はちっちゃい頃、日本語のなかに英単語が混じると、ものっすごい叱られたんですけど、どうせ日本で暮らし始めたら日本語環境に染まるんだから、ママンは当時あんなしつこく怒ることなかったんでは? って思ってしまった(そこかよ)。複数の言語の表記の仕方が面白い。同じひとまとまりの文章のなかでも、著者が学校で習った中国語を活用して話す場面でのセリフは簡体字なのに対して、(おそらく)台湾人である自分を意識しての中国語での発話は繁体字で書かれていたり。ピンインや、台湾語をあらわすときにはカタカナも駆使される。それらが功を奏して、すごく場面を想像しやすい。


  • 井上純一『中国嫁日記』第6巻(KADOKAWA,2016年12月)
     ブログ再録と描き下ろしの進みがそろってないので、時系列面で少し混乱(5巻で決裂した人と仲良し)。今回の描き下ろしはつらいお話だけど、男性側視点で描かれたものはあまりないのでは。作者のお母さんが泣きながらも冷静におっしゃった言葉に重みがある。

  • モンズースー『生きづらいと思ったら親子で発達障害でした』(KADOKAWA,2016年5月)
     ブログで連載されてたエッセイ漫画の書籍化(書き下ろしもあり)。あまりにも周囲と足並みがそろわない子育て上での不安、わけが分からないことによる絶望と、一方で揺るぎないお子さんへの愛情、お子さんに療育が必要と判明しご自分にも診断が下って対処の道筋が見えてきたときの心の動きなど、かわいい絵柄で正直に吐露されている。主観的な語りだけど門外漢にも伝わるよう分かりやすく整理されており、作中でおおやけにすることとしないことの線引きも一貫していて、著者はとても聡明なかたなのだと思った。

  • あしべゆうほ『クリスタル☆ドラゴン』第27巻(秋田書店,2016年9月)
     去年出てたのいまごろ知って慌てて買った。冷徹な戦士として登場したはずのグリフィスが、旅の過程でじわじわと本当に人間味のあるひとになったねえ。でもこの巻の冒頭で、たぶんずっと未来のことが少し言及されていて、なんだか寂寥感。とにかく、26巻を読んだときにも似たような感慨を覚えたけど、1980年代からずっと読んでいるお話が、ファンも諦めていた中断期間を経て、いま「終わらせよう」という明確な意思を感じさせるように動いているということ自体に、感謝の念がある。
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2016年11月〜12月に読んだものメモ
2017年もよろしくお願いします。


  • 阿部智里『玉依姫』(文藝春秋,2016年7月)
     シリーズ5作目は女子高生が主人公。3作目あたりから純粋な異世界ファンタジーではないという示唆はあったけど、いきなりここまで飛ぶか、と面食らった。広いと思っていた世界が実質「箱庭」のようなものだと確定して、趣向としては面白いけど、少し寂しい気も。一方で謎解きやどんでん返しは楽しめた。若宮殿下って普通にこっち側の人間と意思疎通できるこっち側準拠の常識と語彙があったんだなー(主人公と会話する彼の口から「心筋梗塞」という単語が出たのがなんかそこはかとなく衝撃だった)。前作までのストーリーから本作はいったん離脱して、番外的に世界設定そのものを提示している感じ。来年出る次の巻では八咫烏たちが住まう山内の世界に戻ってこれまでのあれこれに決着をつけて第1部完結ということみたいなので、とにかくそこまでは見届けたい。

  • 松田青子『ロマンティックあげない』(新潮社,2016年4月)
     2013年から2015年までデジタル雑誌『yomyom pocket』に連載されていたエッセイ集。小説作品のどこか浮世離れした印象とは違って、同じ世界に生きてる人だなあって感じ。普通にネットと生活が不可分な感じとかアンテナに引っかかる話題とかに、おこがましいかもだけど親近感があったり。

  • 岸本葉子『週末介護』(晶文社,2016年7月)
     90歳で亡くなったお父さんを5年にわたってきょうだい3人で介護していたときのお話。みんなが通える場所に新たにマンションを購入できて、ある程度は負担を分散できたり、認知症が出てからも比較的穏やかな性格のお父さんだったりという恵まれた条件であっても、やはり介護は大変なのだということがひしひしと伝わってきた。女性の肩に全部かかってくるような介護体験記をよく見かけるので、岸本さんのお兄さんがすごく能動的に関わっていることに感心。本当はわざわざ感心すべきところじゃないのかもしれないんだけど。あと、ちょっとしたミスが命にかかわるかもしれない緊張状態が続く日々のなかでフィギュアスケートをテレビやネットで観戦するのにハマったという話が突然出てきて、テレビ放映に対して注文をつけてらっしゃる内容が、いちいち「ですよね」って感じでした(笑)。介護をしていくなかで湧いてくるマイナスな感情も正直に吐露してらっしゃるのに、読んでてあまり嫌な印象がないのは、この著者の人徳と文章力が大きいなあって思いました。決して能天気なわけじゃないんだけど、根底にポジティブさがあるというか。

  • Shanna Swendson "Frogs and Kisses (Enchanted, Inc. Book 8)"(NLA Digital LLC,2016年12月)
     「(株)魔法製作所」シリーズ8冊目。ついに主役たちが結婚式の相談をするところまで進展しているというのに、またまたややこしいミッションが。ところで、今回は序文で、現実では1作目の出版から10年経ってるけど作中世界では最初のエピソードから1年ちょっとしか経ってませんということが改めて明言されており、なるほどスマホが普及してないよ。そのへんはきちんと考慮するんですね。ケイティが所属するMSIとは対照的な社風のライバル会社のようすが詳しく出てきて、しかも業務内容そのものの黒さを度外視すれば待遇的にはかなりのホワイト企業だったりする皮肉。黒幕の正体はまさかのあの人だけど、まあMSIのトップがあの人なら、ねえ?


  • 小西紀行『映画妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!』(小学館,2016年12月)
     今年も映画館に行く勇気はないけどコミックで読んだよ。一度は夢をつぶされ闇に囚われた子にも、本人が気付かぬまま献身的に慕ってくれる妖怪が憑いていて、やがて自力で立ち直って前向きになっていくという王道ストーリー。ちびっこたちがこういうのからメッセージをストレートに受け止めているのならなんかホッとするかも。空を泳いでいくクジラのイメージや、お馴染みの妖怪たちのかけあいのテンポも楽しい。あと、今回の映画では映像がアニメと実写のあいだで切り替わるということだったので、そのへんを漫画版でどう処理するのかと思ったら……小西先生のご苦労が偲ばれる(涙)。小西先生が描くケータくんは、アニメ版よりもかなりまっすぐな少年漫画らしい心根があるけど、どちらにもそれぞれの可愛さがあるよね。

  • 柴本翔『妖怪ウォッチ コマさん〜たまきと流れ星のともだち〜』(小学館,2016年12月)
     青年誌連載の「妖怪ウォッチ」スピンオフ第2弾。大人向けレーベルだけど、今回コマさんと友達になるのは、威勢のいいちっちゃな女の子。彼女が置かれた状況が読者に、そして彼女本人にも徐々に理解されてくるにつれ、やるせなく激しい気持ちに揺り動かされる。前作でのせつなさは、主人公の個人的な事情を中心に回っていたけど、今回はさらに世界が広がっている。そんななかでも、あくまでもまっすぐ純粋に友達を思うコマさんののほほんとした健気さが救いになる。




ところで2016年は後半に入ってから、私にしては珍しくというか、大人になってから初めてじゃない? ってくらい、テレビ放映している続きもののフィクション作品をコンスタントに追っていたのだ。7月から、台湾・日本コラボの伝統人形劇『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』、9月から全54話の中国時代劇『琅琊榜(ろうやぼう)―麒麟の才子、風雲起こす―』、10月からフィギュアスケートのアニメ『ユーリ!!! on ICE』を観ていたよ。

しかしおかげで一時期、私の日常にはたしかにフィクションが必要だが、それは絶対的に活字でなくてもよいのでは、みたいな感じになってしまったのはちょっとびっくりした。うん、ちゃんと数えてないんですけどね、読了した本、例年より減ってると思います……。さて来年はどうなる!?
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2016年10月に読んだものメモ
  • ヘスター・ブラウン『逃げ出したプリンセス〈上〉』
  • ヘスター・ブラウン『逃げ出したプリンセス〈下〉』(訳:今泉敦子/創元推理文庫,2016年2月/原書:Hester Brown "The Runaway Princess" Havercroft Ltd., 2013)
     偶然出会った欧州小国のプリンスと、英国田舎出身のガーデナー。奇跡のように意気投合してすぐに相思相愛、ロマンチックなプロポーズで迷いなく婚約、しかし……。
     婚約後の「しかし」の部分がシビアにリアルに。いまのネット社会ならそうなるよねー、というようなこともたくさん。家族や仕事への影響も多大。しかもプリンスとそれをめぐってすれ違いまで。ヒロインの本業に対する姿勢と情熱の描写がとてもよかったので、このくだりは胸が痛む。主役ふたりがすごい良識派かつ穏健派なので安心感はあるのだが、意地悪してきた相手が作中で報いを受けることもなく、むしろ欲しいもの与えて喜ばせて「はいはい」とスルーして終わったのはなかなか新鮮かも(そしてここで「え? それだけ?」と思った私は性格が悪いかも)。本来社交的なタイプでなくていちいちあわあわする主人公のキャラには好感と共感。


  • 小前亮『天下一統 始皇帝の永遠』(講談社,2016年8月)
     秦の始皇帝の生涯を小説形式で。聡明な素質はありながら人質の子として自己評価低く育ち呂不韋の導くまま王位につくが、やがて李斯と出会って自ら政治を動かすことに興味を持っていくという流れで内面含めて描写して、天下統一までの過程を重点的に。登場人物の性格設定が明解で話が整理されているので分かりやすい。序章で死期の近づいた晩年の始皇帝を出したあと幼年期から語りはじめ、天下を取ったあとの不老不死に執着する段階を経て、残るものと残らないものへの言及につなげる構成もすっきりしている。

  • 川瀬七緒『女學生奇譚』(徳間書店,2016年6月)
     いわくつきらしい古本の取材を依頼されたフリーライター。犯罪の匂いがする本の内容、現実とのリンク、主人公の特殊事情などが絡み合って、やがて追っていた謎とはさらに別の枠組みが現れる。作中作自体も面白い。振り回された主人公たちの今後を応援したくなった。

  • 中島京子『彼女に関する十二章』(中央公論社,2016年4月)
     50歳の女性の平凡なようで案外と驚きに満ちた日々のできごと。可愛げとたのもしさをかもし出せるこういう人いいなあ。作中で引用される伊藤整の随筆の真摯なレビューにもなっている。夫婦のときにかみ合わないが最終的に長年の連れ添いを感じさせる会話もよい。

  • 山口恵以子『恋するハンバーグ 佃はじめ食堂』(角川春樹事務所,2016年7月)
     去年出た『食堂のおばちゃん』の舞台だったお店の、一世代前のお話。大手ホテルに勤めていた先代(前作ではすでに故人)が仕切っているのでメニューもだいぶ前作と違う。本格フレンチにこだわっていた店主が、妻や地元のお客さんたちの意見を聞いて「白いご飯に合う洋食」にシフトしていくくだりや、修行時代の仲間が大きな賞をとって国際的にシェフとして認められていくくだりはちょっと切なかったけど、店主本人はすっぱり前を向いているし、とにかく出てくるお料理がすごく美味しそう。本作のヒロインが、前作のあのたのもしいお姑さんになって、本作ではまだ小学生の息子くんが、前作のヒロインと結婚するんだなー……とか、のちのちのことを考えながら読めるのも楽しい。

  • 浅野里沙子『藍の雨 蒐集者たち』(ポプラ社,2016年8月)
     実力あるジュエリーデザイナーで、骨董商だった父の跡継ぎとしても仕込まれており、さらには元ミス・ユニバースという、「どんだけ」的な高スペック主人公が家事万能な男性秘書とともにクールに生活しながらさまざまな場面で出くわす犯罪の裏を推理。登場する美しいジュエリーや古美術品などの描写がとても詳細で鮮やかに浮かぶのが楽しい。連作短編集だけど、主人公父の死のいきさつという、最初のエピソードで大前提として出された最大の謎が最終話まで解かれないままだったので、今後シリーズ化するのかな。

  • ミュリエル・スパーク『あなたの自伝、お書きします』(訳:木村政則/河出書房新社,2016年7月/原書:Muriel Spark "Loitering with Intent" 1981)
     20世紀半ばのロンドンで、自伝協会なる怪しげな団体と関わりを持った、作家を目指す女性が、自分の未発表作品を現実が模倣しているかのような奇妙な事態と、デビュー作出版に対する執拗な妨害を乗り越えていく。アクの強い登場人物が次々と出てきて、主人公が書いている小説とリンクした言動をとり始め、事実として書かれたものも虚構と入れ替わりうるのだと提示されていくさまは悪夢っぽくさえあるが、全体の筆致はむしろユーモラスで引き込まれる。

  • 宮下奈都『羊と鋼の森』(文藝春秋,2015年9月)
     今年(第13回)の本屋大賞作品。新米ピアノ調律師のお話。音楽的には決して恵まれた環境では育っていない彼が、こつこつとピアノに向き合い、先輩調律師たちのそれぞれのスタイルの違いに触れながら感覚を研ぎ澄ませて自分なりに解釈していく音の描写が繊細で、作品全体にどこか世俗を離れたような雰囲気も。


  • Thunderbolt Fantasy Project『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 アンソロジー』(KADOKAWA ビーズログコミックス,2016年10月)
     9月末まで放送していた日本・台湾コラボの伝統人形劇から派生したコミックアンソロジー。本編最終回のネタバレがあるので注意。旅の道中や敵方の日常など、軽い感じで読める短いお話が11個。お泊り会にテンション上がる殺無生とか、ちょっと噴いてしまった。どれも絵がきれいで楽しい。個人的には、本編では出番6分だった丹衡兄上が丹翡ちゃんの回想や夢で登場する作品が複数あって嬉しかった。一人称が「俺」になってた作品には少し驚いた。人生で最高最悪にテンパッてた瞬間にもあんな古式ゆかしい口調で啖呵を切った兄上が妹の前では「俺」を使うという発想はなかった。でもこれはこれで萌える。
    〔執筆陣・敬称略:高山しのぶ(カバーイラスト)・岩崎美奈子(口絵イラスト)・秋月壱葉・餅岡望・海月孝・菊野郎・桧村タキ・甲斐・柳ゆき助・篁アンナ・林マキ・平未夜〕


  • 中村光『聖☆おにいさん』第13巻(講談社,2016年10月)
     私が贔屓しているルシファーが名前しか出てこなかったが、相変わらず堕天使のくせに面倒見がよくてほんわか。次の巻ではぜひまた直接の再登場を。ブッダの母とイエスの母が互いへのコンプレックスを乗り越えママ友になれてよかった(息子たち的には大変なのか)。

  • よしながふみ『きのう何食べた?』第12巻(講談社,2016年10月)
     登場人物の時間が容赦なく進んでいくぞ。そこが面白さではあるんだけど。最後に出てくる新しい事務員さん好感度高いな! 末永く居ついてほしい。さつまいもご飯、子供の頃に亡母が作ってくれてたのに、これ読むまで忘れてた。今度やってみる。

  • 細川貂々『それでも母が大好きです』(朝日新聞出版,2016年5月)
     いつも以上にシンプルな絵柄で、亡くなったお母さんとの関係を分析した作品。これまでの夫婦や子育てについての作品と違って、故人である当事者の了承を得られていないというのもあるんだろうけど、実話としてではなく架空のキャラに託して語らねばならなかったこと、お母さんの呪縛に気付いて逃れるところで話が終わっており、そこからタイトルにつながる具体的描写がいっさい出てこないことに、現在進行形の生々しさを感じる。実際にはもう、ここに描かれているところからさらに状況は前に進んでいるのかもしれないのだけれど。
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