Robin McKinley "Rose Daughter"

Rose Daughter
(Ace Books, ペーパーバック1998年/ハードカバー1997年)
【Amazon.co.jp】

感想を書く順番が前後しましたが、大晦日からお正月のあたりに読んでいた、今年最初の読了本。

ボーモン夫人の戯曲やディズニーのアニメで有名な、フランス民話「美女と野獣」の再話バージョンです。

実は、マッキンリイはこの作品を出す20年前にもすでに一度、「美女と野獣」をベースにした小説 "Beauty: A Retelling of the Story of Beauty and the Beast" を書いて、それで1978年にデビューしています。

同じお話がもとになっていますから、あらすじは基本的に同じ。大きな街でゴージャスな生活を満喫していた裕福な商人とその3人の娘たちが、商人の仕事が破綻したため田舎で質素な暮らしを余儀なくされることとなる。そして商人はある吹雪の夜、不思議な館に迷い込んでそこで食事と寝床を提供されるが、帰り際に何気なく薔薇の花を一輪、末娘への土産にと無断で手に取ってしまったがために、その末娘が館のあるじである「野獣」と暮らさねばならなくなる――

原典では、野獣の館で贅沢な生活を送る妹に嫉妬する俗っぽい人たちだったお姉さん2人が、妹の幸せを心から祈る善良な女性たちとして登場するのも、2冊に共通しています。マッキンリイは、どうしてもお姉さんたちを「いい人」にしておきたいらしい。

ただ、「ヤングアダルト向け」と分類されていた "Beauty" と比べれば、今回読んだこちらのほうが、ちょっと込み入った設定が持ち込まれているのと、日々のあれこれがこまごまと書き込まれているのとで、ずっと読み応えはありました。

また、個性的な3人姉妹の性格も、がらりと変わっています。"Beauty" では、ヒロインは馬と書物が大好きな利発で元気いっぱいの女の子でしたが、この "Rose Daughter" では、その性質はどちらかというと、馬の扱いに天賦の才を持つ凛々しく勇ましい長姉Lionheartと、弁舌するどく手先の器用な次姉Jeweltongueに割り振られている感じです。

肝心のヒロインBeautyは、物静かで繊細な子。自分の呼び名がBeautyなのは、別に突出して美しいからじゃなくて、街で仕事を見つけてお金を稼いでくるお姉さんたちみたいな特技がないから、ほかに褒めるところがないからだ……なんて思っちゃうような、謙虚な娘さん。

でも芯のところは、マッキンリイ作品のほかのヒロインたちと同じくしっかり者です。商売が行き詰って茫然自失状態に陥ったお父さんのために、ただ独り黙々と書斎にこもってすべての書類に目を通し、必要な書簡を代筆し、住んでいた大邸宅を売却して田舎の小さなボロ家に移り住む手はずを整え、一家が路頭に迷うのを防いだのは、姉妹のなかでいちばん辛抱強い、この末娘Beautyなのですから。

そして何より、Beautyには、植物を育てることに対する、ものすごい情熱と才能があるのです。この世界では魔法使いしか育てることはできないとされている、ありとあらゆる種類の薔薇の花を、献身的な世話で満開にさせてしまうほど。

そして、この物語の「野獣」の館には、いまにも生命力が尽きそうになっている薔薇の木でいっぱいの、大きな温室がありました。

ってなわけで、ページ数をかぞえたわけじゃありませんが、印象だけで言えば、実質この本の半分以上は、ヒロインの「園芸日誌」だった……という気がしてなりません。最初は一家で引っ越した先の、荒れ果てていた小さな家で。そしてその後は家族と引き離されて暮らすことになった野獣の館で。ジャングル状態のつるを刈り取り、結わえ、挿し木をし、水をやり。その辺の手順が、実に実に詳細かつリアリティたっぷりに書き込まれているのです。

とにかくヒロインの価値観が、ひたすら「ガーデニング>その他」って感じなのが、なんともスタンダードな「おとぎ話」を逸脱しています。口に出すだけで望みのものがすべて手に入る野獣の館では、その気があれば豪奢なお姫様生活だってできちゃうってのに、毎日どろんこの汗だくになって動き回り、薔薇の棘で両腕がみみず腫れだらけになろうが、おかまいなし。傷だらけになった白い肌を見て、むしろ野獣が動揺する始末。

着るものも食べるものも、すべてどこからともなく勝手に現われてくる魔法の館において、なんだかヒロインが妙に「チーズはどこから来るのかしら」ってことにこだわり始めたなあ……と思ったら、「近場に牛がいるのならその排泄物から堆肥が作れるわ!」という理由だったなんて、びっくりだよ(笑)。

あとは、薔薇! 作者の薔薇への思い入れをひしひしと感じた! ヒロインと、ヒーローたる野獣とが、共に愛してやまない薔薇の花が、色合い、かたち、香り、手触り……さまざまな感覚に訴えかけるよう描写されており、その過剰なほどの言葉の連なりが、とても美しい。多種多様な薔薇たちを、まざまざと思い浮かべることができてしまう。

そして野獣はデビュー作バージョンと同様に、大きくて無骨な身体のなかに、繊細で高潔な魂を宿した紳士なのでした。彼は原典と同様に、呪いをかけられて魔法の館に捕らわれているわけですが、この呪いを解く者としてやってきたヒロインの最後の選択には、ちょっとばかりヒネリが入っています。

個人的には、ジャン・コクトーの映画版『美女と野獣』の最後のほうで、主役のジャン・マレーがジョークとして口に出すセリフ(このシーン、すっごい好きだったんだー!)を思い出して、かなり嬉しかったりしました(ネタバレすれすれ)。
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