ロビン・マッキンリイ『サンシャイン&ヴァンパイア』上・下

サンシャイン&ヴァンパイア〈上〉 (扶桑社ミステリー)サンシャイン&ヴァンパイア〈下〉 (扶桑社ミステリー)
(上)【Amazon.co.jp】
(下)【Amazon.co.jp】
(訳:藤井喜美枝/扶桑社ミステリー,2007年11月/原書:Robin McKinley "Sunshine" 2003)

"Rose Daughter" を読んだあと、そういえばマッキンリイって、最近どっかから新規に翻訳が出てなかったっけ、と探してみたら……すみません、「最近」じゃなくて「一昨年」でした。

主人公のレイ(通称サンシャイン)は、母親の再婚相手が経営するコーヒーハウスで働いている若い女性。朝の4時に起き出して深夜に帰宅するまで、週1の休日を除いてはひたすら名物の《頭くらい大きなシナモンロール》をはじめとして、《キャラメルの大洪水》、《ロッキーロードの雪崩》、《地獄の天使(エンゼル)ケーキ》、《殺し屋ゼブラ》といったユニークな名前のパンやケーキを焼きまくる毎日です。

最初、舞台はアメリカのどこかにある普通の小さな町みたいだし、おお、マッキンリイで現代モノって初めてだ! と思ったのですが、しばらく読み進むと、ここが正確には、ヴァンパイアや獣人や妖精などが実在し、ヴードゥー戦争と呼ばれる「人間対ヴァンパイア」の全面戦争を経てまだその傷から人間界が回復しきれていないという設定の、パラレルワールドであることが分かってきます。

「魔物が実在する」という前提があるため、法制度や社会構造や人々の常識、はたまたこの物語のなかでは《世界(グローブ)ネット》と呼ばれているインターネットなどの技術のありようも少しずつ、読者がいるこちら側の世界とは違っているのです。

またヒロインによる饒舌かつちょっと皮肉っぽいモノローグで物語が進むのもあって、本作でのヴァンパイア描写には、何かこう、ほかのヴァンパイア小説でありがちな耽美的雰囲気を感じさせる要素がありません(笑)。この世界におけるヴァンパイアは、人間側から見て、はっきりと「異形」です。見た目も内面も、人間とは隔絶した別種の恐ろしい生き物として認識されています。

ところが、平凡なパン職人だったはずのサンシャインは、ある晩ふと魔が差していつもと違う行動をとったばっかりに、本当の父親から受け継いでいたけれどずっと封印していた特殊な力を目覚めさせ、さらにはある一人のヴァンパイアとのあいだに、本来ならありえないような「きずな」を持つことになってしまいます。このヴァンパイア、コンスタンティンもまた、ヴァンパイア族のなかでは異端の立場にありはするのですが。

別のヴァンパイアを共通の敵として、生き延びるために共闘するパートナーとならざるをえない、コンスタンティンとサンシャインの、ずーっと噛み合わないんだけど、ふとした拍子に一瞬だけ何かが通い合うような、ぎこちないやりとりが、なんだか妙にツボでした。

サンシャインには、ちゃんと人間の魅力的な彼氏がいるし、コンスタンティンにとっても、人間の女性というのは完全に自分とは別種の生き物で、お互いあまりにも「対象外」なわけなんだけど、それでも、どこか、かぎりなくほのかなロマンスの芽生えに近いような、むずむずするような戸惑いと探り合い。太陽の光に当たると瞬時に死んでしまうヴァンパイアが、「わたしのサンシャイン」とか言っちゃう時点で、なんかもう、「うわーーーっ」と、のたうちまわりたくなるような!

そして、ふたりのきずなとサンシャインの能力が変容していくにつれて、なんの変哲もなかったはずのサンシャインの周囲の世界にも、謎が見え隠れするようになってきます。これが、なんだかじわじわと怖かった。いや、厳密に言えば、怖いというのはちょっと違うんだけど……これまで自分の目に見えていたものが、そして自分自身さえもが、すべて本当は思っていたのとはぜんぜん違うものなのかもしれないと悟り始めるときの、とらえどころがないんだけど確実に存在する心もとなさ。

そんななかでも、あくまでも「プロフェッショナルなパン職人」であり続けようとするサンシャインが、いじらしい。

なんかね、もうね、敵意を向けてくる人も善意を向けてくる人も、ほとんどみんな、「裏の顔」がありそうなんですよ! サンシャインの彼氏さん含めて! なのに結局、そこはかとなくほのめかされた謎は、ずっと明言されない謎のままで、気がついたらエンディングまで行ってしまってるんですよ! これ、続編、出るのかなあ。訳者あとがきによれば、作者は書きたいと言っているそうなんですけど。ぜひとも書いてほしい。

あと、直接このお話には関係ないんだけど、最初のほうでサンシャインが、「一番好きなおとぎ話」を尋ねられて『美女と野獣』と答えるくだりがありました。いやそれ、ヒロインがっていうより、作者が好きなんだろー! と、ちょっと笑えてしまった。マッキンリイって、"Beauty""Rose Daughter" と、『美女と野獣』を下敷きにした小説を2作も書いているものねえ。そりゃーもう、よっぽど好きなんだろうと思うよ。

そしてさらに読み進んでいくと、今度はサンシャインが、

あたしはいつだって、お姫さまがただ救出されるのを待って、なにもぜずにぶらぶらしているような話を軽蔑していた。『眠り姫』とかは本当にかんべんしてほしい。あの愚かでつまらない弱虫のお姫さまに、とっとと目をさまして、自分で悪い妖精を懲らしめてこいと、だれか言ってやってくれないだろうか。

なんてことを考えてるページがあるのですよ。ふむふむ、たしかに、これまでに読んだマッキンリイ作品で、ヒロインがただただ救出されるのを待っているようなものは、ありませんでした。これもサンシャインに言わせているけど、じつはマッキンリイ自身の嗜好だと考えてよいんじゃないかなあ。

ってわけで、マッキンリイの「おとぎ話シリーズ」(と、勝手に認識してる)のなかの1作、『眠り姫』がベースになっているという "Spindle's End" は、いつか絶対に読まねばなるまい! と心のメモ帳に書き込んだのでした。どんな『眠り姫』になっているのか、興味津々です。
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    コメント
    最近更新が増えていて嬉しいかぎりです。……が、ならのさんが書評を書くと、私の「読まなきゃリスト」がまた長くなっちゃうのですよね〜。ああ全然読むのが追いつかない!(←嬉しい悲鳴です)
    ロビン・マッキンリイって未読なんですが、すごく面白そう。でもググってみたら、あんまり邦訳ないんですね?なんでー。原書で読む語学力がないのが悲しいです……。
    とりあえず(しばらく先になりそうだけど)『サンシャイン&ヴァンパイア』読んでみます!
    • To-ko
    • 2009/02/05 8:34 PM


    To-koさん、いつも見にきてくださってありがとうございます。
    「読まなきゃリスト」は、私も長くなる一方です。ネットでいろんな本読みの人のところを見てると、どんどん気になる本が増えていきますね。ほんとに追いつかない!(幸せなことなんだけど!)

    マッキンリイ、おっしゃるとおり、残念ながらあんまり翻訳が出ていないのです。でも機会があったら、手にとってみてくれると嬉しいな。
    • ならの
    • 2009/02/06 12:10 PM
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