ナオミ・ノヴィク『テメレア戦記II 翡翠の玉座』
category : 読んだもの〔活字〕

(訳:那波かおり/ヴィレッジブックス,2008年12月/原書:Naomi Novik "Throne of Jade" 2006)
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ドラゴンが実在したという設定でナポレオン戦争時代を描く架空戦記シリーズ第2弾。
シリーズ最初の巻『テメレア戦記I 気高き王家の翼』を読んだとき私は、英国軍に所属しつつも、あくまでローレンスに対してのみ忠実なテメレアの姿勢が、今後ふたりをまずい方向に追いこんでいくのではないかという危惧を抱きました。そしてまさにこの巻の冒頭でいきなり、ふたりは英国政府の意向によって引き離されようとしており、それを受け入れられないために窮地に陥っています。
卵の中にいたときに中国からフランスに寄贈され、輸送中に英国戦艦によって奪取されて軍属となったテメレアですが、中国側は本来なら軍役につかせることなどありえない高貴で稀少なセレスチャル種のドラゴンを不当に扱っているとして、テメレアの返還を要求しているのです。外交上の駆け引きの一環として、英国政府はそれに応じるつもりです。
第1巻では冒険小説の主人公には珍しいような、熱血成分の少ない落ち着いたキャラクターだったローレンスも、さすがにカッとなって上官に逆らってしまうし、もちろんテメレアも納得できず、逮捕されかかったローレンスをさらって勝手に空軍に合流したりと、不穏当な行動に出てしまいます。最終的に、決してローレンスから離れようとしないテメレアを見て、中国使節団の代表者ヨンシン皇子は、さしあたりはローレンスや空軍の「クルー」たち込みでテメレアを自国に連れ戻すと決定。
そんなこんなで、この巻では前の巻からがらりと舞台が変わって、主にイギリスから中国への巨大輸送船による船旅、そして一行が中国入りしてからのことが描かれています。
本書でいちばん印象的だったのは、この中国への旅によって、「カルチャーギャップ」や「それぞれのキャラクターたちの立場の違い」が、さまざまなかたちで顕在化していることでした。
同じイギリス人でも、英国政府の代表として同行する外交官と、外交よりテメレアが大事なローレンスではどうにもソリが合わないし、同じ軍人でも、海軍と空軍のメンバーが輸送船上で共同生活するのは、かなり大変。かつては海軍将校だったローレンスも、空軍に移籍して馴染んだいまとなっては、海軍にとってはよそ者でしかなく、それぞれの慣習や気質のあいだで板挟みになってしまうし、自分で指名した気心知れてるはずの艦長とも、お互いの親が主張を異にする政治家同士であるために、ときには気まずい思いをします。加えて、もちろん中国使節団の人々とイギリス勢との強烈な食い違い。そしてまた、中国人同士のなかにも派閥があって。
さらには、いままでローレンスとは一心同体かと思われたテメレアも、成長して少年期を脱し、イギリスとはまったく違う思想に基づいてドラゴンを遇する中国文化に接することで考えを深めて、必ずしもローレンスの意向に沿うとはかぎらない、自分自身の意志や嗜好をはっきりと持つようになっていきます。
それぞれのキャラの思惑が複雑にからみあって、そのからまり具合を、基本的には常に公平たらんとする良識派の英国紳士であるローレンスの視点から描いているので、いろいろと気苦労の多い彼がもう気の毒で気の毒で。
そうそう、「英国人の目から見た中国文化」が詳細に描写されているのも、本書を読んでいてとても面白く感じた点でした。いまよりずっと、東洋と西洋とが遠かった時代の、異文化見聞。新しい世界に目を開かれてどんどんいろんなものを吸収していくテメレアも可愛いんだよなあ。それを見守るローレンスは少し寂しそうで哀愁ただよったりしちゃってますが。
物語の終盤で下されるテメレアの決断(そしてテメレアに従うというローレンスの決断)は、そこまでの流れからすれば順当なのだけれど、どのようにその決断内容を具体化していくつもりなのかと考えると困難が山積みなことは明白で、やはり次の巻も読むことになるでしょう。
