三浦展『シンプル族の反乱 モノを買わない消費者の登場』

2005年の『下流社会』(光文社文庫)が世間で話題になった頃から、お名前があちこちで目につき始めていたのですが、このかたの本を読んだのはこれが初めてでした。巻末の著者紹介を見ると、「カルチャースタディーズ研究所主宰。消費社会研究家、マーケティング・アナリスト。」という肩書き。そうだったのか、なるほど。

高級ブランド品や自家用車などに価値が置かれていた時代が終焉に向かっており、日本の消費傾向が変化してきているということを、さまざまな角度から検証し、企業もこれまでのように次々と新奇さで目を引くものを提供して顧客の買い替え欲に訴えかけていくという方針ではもうやっていけませんよ、みたいなことを提言している本。

まあ、基本的には、そうなんだろうなー、と思います。

ただ、この本で取り上げられている「シンプル族(著者の造語)」の概念が、なんだか私にはしっくり来ませんでした。いや、文脈的には分かるんだよ。分かるんだけど。バブル時代に海外ブランド品にがんがんお金を注ぎ込んでいたような人たちと対比させて、そういうのに踊らされない人種ってことだよね。

本書の最初のほうに、著者が考える「シンプル族の典型イメージに近い暮らしをしている人たち」へのインタビュー内容が、数ぺージにわたってずらずらと羅列してあるのですが、その辺を見るとどうやら、著者の言うシンプル族とは、要するに雑誌で言えば『ku:nel』とか『天然生活』に出てくるようなタイプの人たちがメインなんだなというのが、おぼろげに理解されてきます。ナチュラル系とかロハス系とか言われる人たちな。

でも……実際にはなんだかカオス(笑)。実例を詳しく見ていくと、和服に興味があって和の生活っていいなあと思っている人も、アジア諸国を旅するのが趣味でエスニックな小物で部屋を埋めてる人も、北欧家具にハマっている人も、物質的なぜいたくさよりも精神的充足に価値を置きたいと思うあまりスピリチュアル系に片足突っ込んでいる人も、自動車に乗るのをやめて自転車通勤を始めた人も、百貨店ブランドでなく機能性重視のユニクロや無印良品の服を愛用しコンビニ弁当を食べている人も、みんな一緒くたに「シンプル族」。

待て待て待て、ユニクロ着てコンビニ弁当を食べている層の何割かは、確実に単なるヲタkげふんげふん。著者はコンビニ弁当派については、若者なのでお金がないせいだろう(つまりお金があれば、ほかのシンプル族と同じように、野菜の産地や無農薬であることにこだわったり化学調味料入りのジャンクフードを忌避したりするだろう)というニュアンスで書いているのですが、どーーーーーかなーーーーー。個人的には、そうでもない人もけっこういそうな気がするよ。偏見?

それと、これも偏見かもしれないんだけど、こういうロハス系の人たちの一部には、現在はかつてのように分かりやすい海外ブランドなどがメディア上でオシャレとされていないから、こっち側に流れ着いただけ……みたいなタイプもいそうな気がしてるんですよね。そういう人は、あと数年早くに生まれてバブル時代が終わらないうちに成人していれば、あっけなくバブルにも乗っかって踊っていたんじゃないだろうか。職人さんが手編みする藁でできた3万円のおひつカバーを予約して1年待ちで買ういまどきのシンプル族も、バブル時代に老舗海外ブランドの定番品を「一生ものだから」と1年待ちで手に入れてた人も、メンタリティとしてはそう変わらないって場合もあるんじゃないのかなあ。

なんていうのかな、この「シンプル族」という語感に抵抗があるのかも。ここでシンプル族の主流として挙げられているような人たちの生活って、結局はいろんな自意識に縛られていて、少なくとも「シンプル」じゃないのでは、と感じてしまうんだ。使い古した木製の家具がおしゃれだから、自分で使い込んでいくのじゃなく他人がよい感じに使い古してくれたものを骨董屋さんでいきなり買ってくるとか。ブランド物にはこだわらないと言いつつ、食器は流通に乗ったものよりずっとお高い作家の一点モノとか。祖母から譲ってもらった良質な品です(と、さりげなくお育ちのよさや家族との絆をアピール)とか。何かこう、なんだかんだ言っても自分以外の何かによる価値づけ、バックグラウンドストーリーが必要なんだなあ、と。まったく同じような無地のスリッパが近所の西友にあったとしても、こういう人はきっと、わざわざ隣の駅の前にある無印良品まで買いに行くんだ。そして無印良品が平成元年までは西友の中の1ブランドだったことなんて、すっかり忘れたフリをしているんだ(笑)。

……話がずれました、ていうか最後のほう偏見による妄想が暴走しました、すみません。ついでに白状しとくと、私自身のモノに対する好みなんかも、本書で示されているシンプル族的な感覚に、じつはわりと近いかもしれません。ただ、生活を隅々まで自分のコントロール下に置こうとしてしまう心の動き(たとえば、市販のシャンプーの容器はデザインがごちゃっとしていて気にくわないので別途入手した容器に入れ替えます、みたいな)が、ときどき自分でもなんか気負いすぎてる感じがして恥ずかしくなってくるんですね。って、それ私のほうがよっぽど自意識に縛られとるわ!

それはともかく。まあ要するに、この著者の言葉の使い方が、なんだかあちこち引っかかる、という話ですよこの感想文の本題は(え、そうだったのか、いま自分でも初めて気付いたぞ!)。

「シンプル族」というくくりの大まかさ然り、著者による「ジェネレーションZ調査」なるものが唐突に登場すること然り。これまでの著者の本をずっとチェックしてきた読者ばっかりじゃないんだから、まずその「Z」の中身を説明してくれ! と思っちゃう。あるいは「インテリ自己実現系」なんてカテゴリーが出てくるんだけど、そこに属する人たちは何を基準にそこに振り分けられているのかという話が説明がまったくないため、あいまいなイメージのみで読み進めざるを得ない、とか。

そう、私がマーケティング用語に詳しくないだけかもしれないんだけど、予備知識のない状態だと、とにかくイメージ先行で乱暴にカテゴライズしているのでは、と感じてしまう箇所が多くて、なんだか不親切に思えてしまうし、読んでてしんどいのです。

まあでも、今後景気が回復したとしても、消費者がバブリーだった時代の価値観に大量回帰することはもうないだろう、というのにはわりと同意、かな。
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    コメント
    三浦展は、新書好きの間では「粗製濫造ライター」の代名詞みたいになっています(笑)。
    三浦のやり口ってのは、自分が気に入らない集団にレッテル貼りをして、屁理屈つけて差別する、というものです。
    自分のHPに三浦の『下流社会』と『下流同盟』についての書評があるのでよろしかったら読んでみてください。

    あと、ブックオフに行けば『下流社会』あたりは一冊100円で売っていると思うので、買ってみて読んでみてもいいかもしれません。

    あと、

    >著者はコンビニ弁当派については、若者なのでお金がないせいだろう(つまりお金があれば、ほかのシンプル族と同じように、野菜の産地や無農薬であることにこだわったり化学調味料入りのジャンクフードを忌避したりするだろう)というニュアンスで書いているのですが、どーーーーーかなーーーーー。

    とのことですが、一食200円を超えると「今日は食費かかったな・・・」と思ってしまう自分からすると毎食コンビニ弁当を買う人はブルジョアに見えます(笑)。
    あ、でも基本三食自炊なので基本ご飯、汁物、おかず一品は食べてますけど。
    • mit33
    • 2009/12/13 12:59 PM
    it33さん、はじめまして。書き込みありがとうございます。

    三浦さん、評判悪いんですね(笑)。

    そちらのサイトの書評も拝見して、そういえば私も今回読んだ本で、論拠とされているデータの選び方や使い方が恣意的で、先に結論ありきなのではという印象を受けたんだったなあ……と改めて思いました。

    食生活については、「産地直送の新鮮な、作った人の名前が明記されているオーガニック野菜でなければ!」とか「日本の伝統的生活を守ることは非常に大切なので土用の丑の日には必ず《国産》のウナギを食べます」とか(本書で三浦さんがおっしゃる「シンプル族の価値観」っていうのは、こんな感じだと思う)言い出さなければ、自炊するほうがずっと経済的ですよね。
    (我が家は最近「輸入ウナギ怖い→国産ウナギ高い→ウナギ食べない」になっちゃってます(笑)。)

    ああそうか、つまり私は「節約したくてバブリーな時代のような消費をしなくなった人と、別の部分にこだわりたくてバブリーな時代のような消費をしなくなった人を、本当にひとまとめにして同じレッテル貼っちゃっていいのか」みたいなところが一番ひっかかったのかなあ。

    とにかく、すっきりしない読後感だったことはたしかです。
    • ならの
    • 2009/12/13 4:28 PM
    ↑mit33さま、す、すみません!
    お返事をテキストエディタで下書きしてからコピー&ペーストしたら、お名前の最初の文字が抜けてしまいました。

    2日もたってから気づくなんて(汗)。
    大変失礼いたしました。
    • ならの
    • 2009/12/15 11:14 AM
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