虫のいい日々

あぶはち取らずと言われても、極楽とんぼで過ごしたい。
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香山リカ『しがみつかない生き方 「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール』
発売当初の帯の惹句が「〈勝間和代〉を目指さない」でした。まあこれは、本書第10章のタイトルそのまんまでもあるんですが。増刷分からはもう少しおとなしめなコピーに変わっていましたが、とにかくあれはインパクトがあった。

そして狙いどおりだったのかなんなのか、その後、雑誌に勝間さんと香山さんの対談が掲載され話題になったりなんかもしたんでした。

さて、内容なんですが。わりと、予想どおりかなあ、と。私は以前、勝間さんの推奨する生き方ついてはこんなことを書いていたくらいだから、当然、読む前から自分はどちらかと言えば上述の帯のキャッチコピーのターゲットに該当するタイプなんだろうと思っていたのですが、やはりそんなに目からウロコが落ちるようなことはありません。一応、サブタイトルにある「10のルール」を以下にメモっておきます。

  1. 恋愛にすべてを奉げない
  2. 自慢・自己PRをしない
  3. すぐに白黒つけない
  4. 老・病・死で落ち込まない
  5. すぐに水に流さない
  6. 仕事に夢をもとめない
  7. 子どもにしがみつかない
  8. お金にしがみつかない
  9. 生まれた意味を問わない
  10. 〈勝間和代〉を目指さない


最後のルールで、「〈勝間和代〉」と、人名にカッコがついているのは、ここで言う〈勝間和代〉が、生身の人間としての勝間さんではなく、単なる純化された概念だからなのでしょう。自分に合ったやりかたで効率的に無駄を省いてがんばれば、きっといまより豊かな私になれると、ひたむきに信じて、そうじゃないネガティブな未来を考えないようにしているひとたちを表す、ひとつの象徴。

この本はたぶん、そういうふうにはなれない、「疲れちゃった」ひとたちへのものですよね。ポジティブに攻めの姿勢でがんがんやれているうちはよいけど、実際には人生なんて自分の力の及ばぬところでどう転ぶか分からないし、転ばぬ先の杖にも限界ってものがある。そんなとき、「頑張れなかったのが悪いのだ」と矛先を自分に向けてしまわないための本。自分も周囲も理不尽に責めてしまうことなく、ただ自分にできることをやって、それ以外のところは現実を受け入れ、「否認」をしないでいる力を持つためのアドバイス集。

常に前向きでいることも大変だけど、「しがみつかない」ことだって、時には難しい。香山先生はあくまでも精神科医としての立場から各論を述べていらっしゃるけど、「老・病・死で落ち込まない」なんて言われると、なんだか宗教チックな感じすらします。「うつせみは数なき身なり山川のさやけきみつつ道をたずねな(by大伴家持@万葉集)」みたいな。

ちなみにこの「うつせみは……」っていうのは、高校の頃から現在に至るまでの私の座右の銘でございます(婆臭い女子高生とか言うなよ! ぜったい言うなよ!)。ここで言う「道をたずね」るというのは、いわゆる「求道」ですよね。本来は仏教用語なんだと思いますが、少女時代の私にこの和歌を教えてくれたひとが、神主の資格を取ったことのあるクリスチャンだったので、私のなかでは特定宗教あんまし関係なく解釈してオッケーってことにしてる(笑)。

そんなものをモットーにしてみたって、実際のところ執着してしまうときはしてしまうし、手放せないものは手放せないし、心乱れるときは心乱れるものです。そもそも、「道をたずねな」の「な」は、(学校で古文の授業を受けていた頃があまりに昔なのでちょっと自信ないまま言うけど)願望を表す終助詞だ。大伴家持だって、むきーっとなることはあったでしょうよ。あるからこそ、山川のさやけきを思い起こしてどす黒くなってきた心を清浄化ようとしたりるすわけですよ。知らんけど。

そして香山先生だって、しがみつかない生き方を読者に向かって説きつつも、決してご自身がすべてから自由なわけでじゃないってことを正直に書いていらっしゃいます。そういう葛藤がときたま行間からにじみ出ているところに、私はかえって好感を持ちました。

 しかし、そこでふと「私はいったいどうなのだ」と思う。(中略)自問自答を繰り返す私も、結局は「いたかもしれないはずの子ども」に十分、執着しているのではないだろうか。子を持つ親たちに「子どもにしがみつくな」と言うのなら、私自身がまず、こういう自問自答から解放されなくてはならないはずだ。
(『しがみつかない生き方』 p.146)

要するに、悟りの境地に安住することなんて、生きてるかぎりは、きっとありえないんですよね。相当いい線まで行ったひとでも、出たり入ったりしてる。何かを追い求めてそのための手段を模索したり、少し疲れて停止したり、本当にこれを追いかけて大丈夫なのかとうしろを振り返ったり、長い目で見ればかなりくだらないのかもしれないことに一喜一憂したりを繰り返しながら、目の前に出てくるものをなんとかかんとか片づけていくうちに、いつのまにか時は流れていろんなものが積み重なっていって、そして寿命がつきるんだ。

それにしても、私はたまたまこの本を12月2日に読み終えたのですが、ちょうどその2日後に、勝間さんが今度は「香山リカさんの『しがみつかない生き方』を読み、正直、迷ってしまっているあなたに読んでほしい、という気持ちでこの本を書きました。」という帯のついた『やればできる』というタイトルの本をお出しになったので、なんか笑いがこみあげてきてしまいました。まさしく、

 それは、たとえて言えばこんなイメージだ。笑顔で誰かに、「がんばれば夢はかなうんですよ」と言われる。それに対して、こちらは真剣に「いや、がんばれない人、がんばっても夢がかなわない人もいるんです」と反論する。すると相手は、うなずきながら私の話を聞いたあとで、また笑顔でこう言うのだ。「努力さえすればどんな夢でもかなうんです」
(『しがみつかない生き方』 p.187)

これじゃないの? ていうか、まさかと思うけどこのおふたり、互いの本の売り上げを伸ばすために共謀してたりとか、しないよね?(笑)
Posted at 19:37 | permalink | comments(0) | trackbacks(1) | pookmark
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 香山リカさんの「しがみつかない生き方―「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール (幻冬舎新書)」 (-amazon)を読了した。  最近話題の新書のようなので平積みされている
今日の一語り | 2009/12/13 7:59 PM