西澤保彦『身代わり』

匠千暁(タック)、高瀬千帆(タカチ)、辺見祐輔(ボアン先輩)、羽迫由起子(ウサコ)の大学生4人が中心になった、シリーズ9冊目、長編としては6作目。

時系列としては『依存』でタックの抱えていた重い過去が引きずり出され、タカチとタックが一蓮托生宣言したあとの話。もう完全に「ふたりの世界」ができあがって、ほかの人たちとのあいだには線が引かれてしまっているんだと思うと、祝福したいような、妙に寂しく切ないような(だってほら私、ボアン先輩派だから!)。

それと『依存』を読んだ段階では、タカチという無条件の味方もいるわけだから、このままタックははっきりと浮上方向に行くんだろうと安直に思っていたら、このお話の前半段階ではまだ危ない状態だったのですね。それで、この作品のなかでやっと、これからも生きていこうという気になる。もちろん、短編集ではすでに卒業後の話が何度か出てきているので、最終的にはちゃんとタックは踏みとどまるんだ、大丈夫なんだってことはあらかじめ分かっているんだけど。

不可解な言動の末に不名誉な死を遂げたノイローゼ気味の大学生。留守番中に誰かを家にあげて殺されたらしいエキセントリックな女子高生と、同じ家で数時間後に死んでいた生真面目な若い警察官。一見、つながりのない事件だけれど……やっぱり、つながりなんて、ない? 最初に亡くなった大学生が直前までボアン先輩主催の飲み会に出ていたことと、殺された警察官がタックの高校時代の同級生だったことから、主人公たちも事件に接点を持つようになります。事件の真相は、それほど驚くような画期的なトリックが使われているわけでもなんでもないんだけど、パズルのピースを組み合わせたように寒々と無機質で、できればそっち方向の回答であってほしくないな、と目をそらしがちだったほうへ、推理はずんずん進んでいきます。

西澤作品に出てくる登場人物って、被害者も加害者もそれ以外の周辺の人たちも、ときに病的なくらいに壮絶に自己中心的だったり支配欲があったりといった「歪み」を持っていて、それが事件につながっていくわけなんだけど。事件描写よりも、そっちの心理説明がいつも、怖くてぞわっとします。他人の命や痛みをまったく顧みない人間がこの世には存在するんだということが、共感だってできると言い出しそうなほどあまりにも当たり前な感じに淡々と書かれているので。そして読んでるこちらも、心の片隅のどこかで、実際ここまで極端な人間も、本当にいるのかもしれないなと思ってしまっているので。

でもボアン先輩の「夏の名残を慈しむ日」には、かなり和んだ。あと、コイケさんって、サブキャラなのでついついスルーしてしまいがちだけど、あとからじわじわと気になってくる謎の多い人だよなあ。
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