Robin McKinley "Spindle's End"

今頃になってようやく2010年初の更新ですが、本年もよろしくお願いいたします。

で、これが今年の読了1冊目。ペーパーバックで読みましたが、ハードカバー版は2000年5月に出版されています。

そういえば去年も読了1冊目はマッキンリイ("Rose Daughter")でした。別に意図して揃えたわけではなく、"Rose Daughter"と同じく昨年1月に読んだ同じ著者の『サンシャイン&ヴァンパイア』の感想文中で、"Spindle's End" も読むと宣言したにもかかわらず、ずっと読まないままだったことに12月に入ってから気づいてしまい、慌てて読み始めたものの、年明け前に読み終われなかったというのが正直なところです(笑)。

その感想文のなかでも引用したのですが、マッキンリイは『サンシャイン&ヴァンパイア』において、主人公に「眠ったまま王子さまが来るのを待ってるだけの眠り姫が許せない」というような主旨のことを言わせています。そして本書 "Spindle's End" は、まさしくその、おとぎ話の「眠り姫」を、マッキンリイ流にアレンジして小説化した作品なのです。つまり、マッキンリイ的に許せる眠り姫とはこんなのだ! というお話。

日常生活に支障をきたしかねないほど土地全体に魔法が満ち満ちており、人間と妖精(フェアリー)が一緒に暮らしている、とある国で、王と王妃のあいだに長年待ち続けた第一子、女の子が生まれます。性別にかかわらず長子に王位継承権が与えられるこの国の、次期女王です。

しかし大々的な名付けのセレモニーの真っ最中、王家に恨みを持ち国の征服をもくろむ「悪い妖精」パーニシアが突如として現われ、王女には「21歳の誕生日までに錘で指を刺して永遠の眠りにつく」という呪いがかけられてしまいました。

辺境の地からやって来て、最前列で見物していた妖精の少女ケイトリオーナは、儀式が中断された混乱のさなかでとっさに赤子の姫を抱き上げてあやし、自分に唯一できる贈り物として「動物と話す力」を授けてしまったことから、王家に仕える年老いた妖精に姫の身柄を託されて、密かに故郷へ連れ帰り、共に暮らすおばと一緒に育てあげていきます。

そこからは、本名の一部を村娘風にアレンジしてロージィと呼ばれることになった王女が、自分の本当の身分を知らぬまますくすくと奔放に、まったくお姫さまらしくなく、しかし愛情に包まれて幸せに成長してゆく日々が、延々と事細かに語られます。本書の大部分がここに費やされている。

マッキンリイ作品の真骨頂は、この「こまごまとした部分にこだわった生活感」にあると思うんだ! なかなか大きな事件は起こらず、ゆっくりゆっくりと作中時間が流れていくので時折もどかしく感じるところもあるのですが、ディテールのひとつひとつを楽しんで読みました。

ロージィの成長過程には、ところどころ皮肉が効いていて、そこはかとない可笑しみも。たとえば、名付け親となった妖精たちから「金髪の巻き毛」だの「ミルクのように白い肌」だのを授けられたはずなんだけど、そのとき誰も「整った顔立ち」を贈ってあげなかったため、総合的にはそんなに美人には育たなかったとか。せっかくの巻き毛も本人の意向によりぱっつんぱっつんに切られてしまっているとか。「銀の鈴を振ったかのように美しい歌声」を授けられたにもかかわらず、じつは生来の音痴だったため、いくら声そのものがよくても歌として成立してないとか。

一方で王女の里親となったケイトリオーナたちは、彼女の正体が当人や周囲の村人にバレないよう配慮しつつパーニシアによる探索の魔法に神経を尖らせねばならず、王家側は王家側で別のところに王女を匿っているよう見せかけてそこへの敵の攻撃に耐えているなど、それぞれ王女を21年間守りとおすために苦心しています。

そんななかで、ロージィは村の鍛冶屋で馬に蹄鉄をつける手伝いをしているうちに、動物と話ができる能力を活かして馬以外の動物の面倒もみる獣医のようなポジションを確立したり、才色兼備な同い年の親友を得たり、その親友の恋に動揺すると同時に自分の初恋を自覚したりしながら(この辺の恋愛模様もまた、ちょっと複雑なことになってる)、徐々に呪いの発動期限である「21歳」に近づいていくのでした。

そしてついに問題の誕生日の数ヶ月前になって真実を知らされたロージィは、最初は驚愕するものの、やがて毅然として自分にかけられた呪いに徹底抗戦する構えを見せます。王家に仕える力ある妖精たちはもちろん、ロージィの育ての親たち、そしてロージィの親友ピオニーも、協力を惜しみません。また、ロージィを慕う、地元の動物たちも。

そう、誰も、悪い妖精に定められた結末を運命として従容たる態度で受け入れたりなんか、しないのです。

けれども、果たして本当に、一度かけられた呪いを無効化することができるのでしょうか? そしてたとえ永遠の眠りにつかずに済んだとしても、これまで粗忽で単細胞な村娘として育ってきたロージィは、本当にこれから、王位継承権第1位のプリンセスとしての覚悟を持って王室でやっていけるのでしょうか? また、村娘として恋をした相手との未来は?

クライマックスにかけての展開は、かなりの力技。最初に言及した『サンシャイン&ヴァンパイア』でヒロインが主張したとおり、本当に、王女本人と悪い妖精が直接対決して戦っちゃってるよ!(というか、執筆年代はこの "Spindle's End" のほうが古いので、『サンシャイン……』でヒロインにああ言わせたとき、著者の念頭には過去に自分が書いたこの作品があったと思われ。)

はじめのうちこそ、どうせ最終的にはおとぎ話のセオリーどおり王子さまと結ばれて「めでたしめでたし」なんだろうと思いつつページをめくっていたわけですが、さまざまなオリジナル要素が絡んでどんどん原典から逸脱していくのが、「もしかして、最後はいまいちハッピーじゃなかったりする?」と、じわじわ不安を煽ります。だいたい、このお姫さま、王子さま(一応出てくる)のことは、単なる「いい人」としか思ってないし!

結局どうなったかをここでネタバレすることは控えますが、マッキンリイは、人間が持つこの世での役割が、生まれなどの外部的な条件ではなく個人の資質や自覚、意志の力によって定まっていくことを、自分が創り出す物語のなかではゆるぎない鉄則としており、原典のあらすじを踏まえつつ、その点では従来のおとぎ話の基本パターンに否を突きつけているのだと解釈しました。

またその反面、文体そのものは饒舌なわりに、語り口のトーンが淡々としていて、演出としてメロドラマ的に大仰な盛り上げかたをしていないせいか、これだけフリーダムに作者独自のアレンジが入って「小説」化されているにもかかわらず、作品全体としては本来の「昔話」としての素朴な雰囲気も保たれているように思いました。枝葉末節を取り除けば、根幹のストーリーラインはシンプルなままだと言うのも大きい。

ヒロインが近隣に棲息するありとあらゆる種類の動物たちと意思を疎通させ、彼らに一目置かれ頼られ支えられているようすも、どこか神話的に感じます。
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    コメント
    うわああ〜読みたい〜。これ、邦訳は出てないんですよね?
    去年『サンシャイン&ヴァンパイア』を読み、主役2人の関係性に身もだえして喜んじゃった人間としては「読まなきゃ!」って感じなのですが、いかんせん語学力が……orz ああ悔しい。

    年明けて今さらのご挨拶ですが、今年もならのさんの書評、楽しみにしています。もちろん他の話題も。
    • To-ko
    • 2010/01/20 8:19 PM
    To-koさんこんにちは。いつも見に来てくださってありがとうございます。
    こちらこそ今更のご挨拶になりますが、今年もよろしくお願いいたします。

    『サンシャイン&ヴァンパイア』お読みになりましたかー! あの主役ふたりは、なんかこう、分類し難い面白い関係ですよね。

    マッキンリイは、あんまり翻訳が出てなくて、私も残念に思っています。作風が偏っているので、日本で一般受けはしないと判断されているのかも、と思わなくもないのですが。

    せめて昔ハヤカワ文庫で出ていたシリーズが復刊してくれないかなあ。
    • ならの
    • 2010/01/21 10:46 AM
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