能町みね子『お家賃ですけど』

能町さんが平成14年に出会った、牛込の古いアパート。一度は退去したものの、また舞い戻ってきた「彼女」の、平成16年冬から平成19年春までのここでの暮らしを綴ったエッセイ。もとが個人的にリアルタイムで書いていたmixi日記だということで、細々とした心の動きが臨場感をもって語られます。

文章全体からは、どちらかというとテンション低めで淡々とどこか第三者的に、常に自分にツッコミを入れているかのような印象を受けるのに、時になんだかすごく熱い、ような気がする。それが心地よい。

能町さんがOL稼業とデザイナーのアシスタントを並行させていた時代から、OLをやめて、お師匠さんの都合でデザインのお仕事も先細りになって、性転換と心臓病の治療という2種類の手術のために入院をして(この頃リアルタイムで能町さんのブログを見てて持病があるという話も読んでたんですが、当時はわりと軽い感じで書いてらしたので、ここで「ああ、心臓だったのか!」と初めて知って驚きました)、そしてまたアパートに戻ってくるまでのことが書いてあるんだけど、読み終えたとき、この本の主役はきっと、このアパート「加寿子荘」なのだなあ、と思ってしまう。

それくらい、能町さんの「加寿子荘」に対する愛情を感じる。昭和の香りのする、玄関に共同の下駄箱がある築40年のアパート。その木の床や階段や手すりが、いかにきれいに磨かれているか。NTTにも届け出があった部屋番号の付け方がいかに通常と違っているか。そういった描写を読むだけで、なんかじわんとする。

表裏のカバーのや折り返し部分には、実際に「加寿子荘」の畳の部屋や階段やクラシックな形状の鍵の写真が使われていて、微妙にセピアがかったそれらの写真も、このアパートがたしかに現実の存在であることを示しているはずなのに、どこか現実味のない遠い世界というような空気も感じてしまう。それはもしかしたら、読む側の脳内で映像化される「加寿子荘」が、あくまでも能町さんの愛情というフィルターを通してのものだからなのかも。
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