Kate Morton "The Forgotten Garden"

およそ1年前に読んだ本なのですが、来たる2月18日に、めでたくもケイト・モートン『忘れられた花園(上・下)』として東京創元社から邦訳版が出るみたいなので、まるでわざわざこのときを待っていたかのようにブログで紹介してみます(本当はサボっていただけ)。とにかく「物語」を読んだ! という充実感が得られる本でした。

*


1913年、オーストラリアの波止場に、イギリスからの客船に乗ってきたと思われる4歳前後の女の子が一人、置き去りにされていました。童話の本などが入った小さな鞄以外の所持品はなく、記憶が曖昧で自分の名前さえ言うことができなかったその子は、船着き場の職員に引き取られてネルと名付けられ、1930年まで、自分がもらわれっ子だということを知らずに育ちます。

それから1世紀近くが過ぎた2005年。実母の代わりに自分を育ててくれた祖母ネル(95歳)の最期を看取ったカサンドラは、ネルが自分を引き取る直前の1975年に一度渡英していたこと、そのときコーンウォールで古いコテージを購入していたこと、じつは妹らと血のつながりがなかったこと、それがずっと彼女の心にのしかかり家族とのあいだに壁を作る原因となっていたことを初めて知って驚きます。そしてネルの遺志を継ぎ、彼女の出自の謎を探るために、イギリスへと向かいます。しかしそんなカサンドラ自身も、ずっと癒えることのない、ある「傷」を抱えているのでした。

さかのぼって、1900年。父を知らず、病死した母に続いて双子の兄弟をも亡くし、独りぼっちになった12歳の少女イライザは、施設に送られる寸前になって、母の身内の手の者に発見されます。ロンドンの下町からコーンウォールにある大きなお屋敷へ連れてゆかれた彼女は、同じ年頃の当主の娘ローズと一緒に育ち、お互いをかけがえのない親友とみなすようになります。

物語は、イライザが少女から大人の女性になっていく過程と、1975年に英国を訪れたネルの足取り、そして2005年のカサンドラの足取りを三本柱として、ときにそれ以外の人物の視点も盛り込みながら進みます。それぞれの時代を生きる3人の女性の人生が、さまざまなところで交錯し、次第につながりはじめます。

時代を飛び越えてあちこち並行で追いかけることになるので、最初のうちは混乱せずにいる自信がなくて、「えーと、この人が○歳のとき、あの人は△歳で、あっちの人が生まれたとき、こっちの人は☆歳で時代は19××年で……」などとちまちまメモを取りながら読んでいました。だんだん、そんな作業ももどかしくなってひたすらページを繰るようになっていったのですが。

それと、自分が北半球の常識に凝り固まっていたことに気づきました(笑)。オーストラリアが舞台になっている序盤で真夏の描写があって、その2か月前が11月だったという文章が出てきたら、一瞬「なんかの叙述トリックかも!」と身構えてしまったのです。いやいや、南半球ならその頃は普通に夏だろ……。

と、まあそれはさておき。ペーパーバック版で650ページ近く、厚さ4cm(←わざわざ計った)の大長編で、オンライン書店から届いたときは「読み通せるか?」と心もとなかったのですが、読み終えてみると、このボリュームがあるからこその面白さだったと思いました。「濃密なお話を堪能した!」という実感がありました。

幼いネルが持っていた本に収録された数々のおとぎ話の、不思議な力強さ、そして本筋との絶妙な絡み具合。閉ざされ忘れ去られた庭と、そこに封じ込められた記憶のイメージ。

誰にも知られることなく終わるはずだった、当事者でさえそのときは知らずにいた、とある事実が、ずっとあとの時代の人間に明らかとなる、運命的なめぐり合わせへの感嘆。

ひっそりと闇に葬られた遠い過去のできごとに思いを馳せるときの寂寥感と、「現在」を生きる者たちが過去から受け継いだものを未来へとつなげていくのだと考えるときの、やわらかく晴れわたるような気持ち。

そういったものが、読みおわったあともずっと頭の中に残っていて、酔ったようなくらくらとした感覚が続いていたことを、その感覚そのものを、いまでも私は、はっきりと思い出すことができるのです。


ケイト・モートン『忘れられた花園』上ケイト・モートン『忘れられた花園』下
『忘れられた花園』(上)

『忘れられた花園』(下)

(訳:青木純子/東京創元社,2011年2月)
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