虫のいい日々

あぶはち取らずと言われても、極楽とんぼで過ごしたい。
<< August 2019 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
 
ここはなに?
ウェブサイト「虫の居所」の一部です。
管理人ならのが、そのときどきに考えたことや興味を引かれたもの、読んだものなどについて、心のおもむくままに、だらだらと綴るところです。心がおもむかないときは、更新停止しています。
これまでの日々
コメントされた日々
トラックバックされた日々
MOBILE
qrcode
 
2016年6月に読んだものメモ
  • 呉明益『歩道橋の魔術師』(訳:天野健太郎/白水社,2015年5月/原書:呉明益『天橋上的魔術師』夏日出版社,2012年12月)
     台北のいまはもうない商業施設で育った人々が、子供時代を回想する連作短編集。その思い出の風景のなかに、マジック用品を売る「魔術師」がさまざまなかたちで登場して、現実と幻想の境界線をほんの少しのあいだだけ曖昧にする。知らない場所なのに、文章だけでノスタルジックな気持ちが湧いてくると同時に、その「境界」が薄れる心もとない感じも切実。実在する映画の実在するシーンと本書の舞台が重なることで、さらに物語内の現実と非現実だけでなく、書物の中と外の境界もまた揺らいできて虚をつかれた。

  • ケン・リュウ『蒲公英(ダンデライオン)王朝記 巻ノ一 諸王の誉れ』(訳:古沢嘉通/早川書房,2016年4月/Ken Liu "The Grace of Kings" 2015)
     巻ノ二が出てからようやくの「一」読了。今年のローカス賞First Novel部門受賞おめでとうございます。神々に見守られる諸島の7つの国を舞台とした戦記もの。下敷きとなっている中国史のとある時代はあるみたいだけど、さほど詳しくないのもあり、ときたま「あ、これはあれを踏まえてる?」などと思いつつも全体的にはほぼ意識せず。違うタイプのふたりの主人公を中心として描かれる、架空の歴史が動いていくさまを面白く読みました。ただ、裏表紙に武侠という文字がありますが、これで「え?」ってなる人いるかも。私はなった(笑)。なんだろう、神々パート以外はすごく堅実に地に足がついてて、リアリティ重視の、容赦なく激動の時代を淡々と冷徹に描く歴史小説の体裁だよなーという感じがして。「武侠巨篇」って言われたらもっと破天荒なこってり娯楽小説! 的なものを予想しませんか、あの惹句はあれでいいのか、みたいな。

  • 山口恵以子『食堂のおばちゃん』(角川春樹事務所,2015年8月)
     東京の佃で営業している人情味ある定食屋さんを舞台にした連作短編集。銀座からさほど遠くないが庶民的な街並み、でも最近は高級マンションが建つように……という立地で、いろんなタイプの人が訪れる巧い設定。出てくるお料理の描写が美味しそう。巻末のレシピ集(というのが付いているのだ)には載ってないけど、登場したなかでいちばん試してみたいのは、鶏挽肉を入れた筍ご飯です。これまでずっと油揚げ派で、そういう発想がなかった。来年、旬になったときまで覚えていますように……と、ここにメモ。

  • Robert J. Sawyer "Quantum Night [Kindle Edition]"(SFWRITER.COM Inc., 2016年3月/底本:Ace, 2016年3月)
     2020年が舞台の近未来もの。2016年現在の世界情勢を踏まえて、けっこうありうるかもしれない社会に、いつものぶっとび珍要素(失礼、でも好きよ)をプラス。今回のネタの一部は、たとえばTwitterで「私のタイムラインではみんなこれに反対してるのに世間の大多数は賛成なの!?」と思ったり、スポーツの試合の勝敗などがきっかけで発生した暴動に参加して破壊活動してしまうフーリガンたちの内面ががさっぱり推測できなかったりといった経験のある人には、かなり心情的にぞわっと迫るものがあるんじゃないだろうか。しかしそこで、この作品のような仮説を立ててしまうと、ミもフタもないというか。理解しあえない人たちは永遠に理解しあえないという、ある意味とても殺伐とした話になってくるので、後味は悪い。
     テーマ的には、以前の "WWW" 三部作と通ずるところが大きいかも。ただ、"WWW" の超越した非生物知性体Webmindがやっていたことを、本作では一介の生身の人間がやろうとして、しかもWebmindと違って「最大多数の最大幸福」追求のために少数の者をばっさり切り捨てることを肯定する思想の人が主人公で、なおかつ作品全体としてもその決断が肯定されるので、やはり後味は悪い。そこへ行くまでの科学的・倫理的な筋道立てのアクロバットは(私の頭では理解しきれてない部分も多いだろうけど)面白いし、SFの意義ってそういう思考実験的なとこでしょ、とは思いつつ。
Posted at 10:01 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark
コメント
コメントする









 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://days.mushi.pepper.jp/trackback/1262095