2017年1月に読んだものメモ
category : 読了リスト
- Shanna Swendson "Paint the Town Red (Enchanted Universe Book 1) " (NLA Digital LLC, 2016年12月)
「(株)魔法製作所」シリーズのスピンオフ短編。電子書籍で無料配布中でした。MSIのセキュリティ担当、ガーゴイルのサムによる一人称で、ケイティのミッションを支援してないときのお仕事中のひとこま。なかなかハードボイルドな語り口。
- 新井素子『星へ行く船』(出版芸術社,2016年9月/親本:集英社文庫コバルト・シリーズ,1981年)
改訂版。巻末に猫のバタカップがどうやってあゆみちゃんに飼われるようになったかが判明する書き下ろし短編あり。この短編はシリーズ最後までの展開を知ってる人だと「ああ、なるほど」って思うやつですね。宇宙移住が実現している未来の話なのに、いろんな価値観とかがやっぱり「昭和」だよなって思う部分が目について、なんだかメタっぽい読み方をしてしまった。コバルトで読んでた頃のこととかも思い出されて懐かしい。
- 植本一子『かなわない』(タバブックス,2016年2月)
写真家の日記その他(主にブログ再録)。ご夫君はミュージシャンで、小さいお子さんふたり。日々の暮らしのこまごまとした話の率直で繊細な描写に共感するところと、芸術家夫婦だからか知らんけど破天荒だなーと感じるとこと。しかし切実さも伝わる。特に途中からは終盤にかけて予想外の展開になっていって、ここまで公開しちゃって大丈夫なのかと心配になるほどなんですが、奇妙な迫力で読ませる。今月末発売の新刊の試し読みページを見てみると、また大変なことになってるみたいで。
- 温又柔『台湾生まれ 日本語育ち』(白水社,2016年1月)
最も自在に使えるのは日本語だけど法的な日本での立場は外国人で、大きくなってから学校で中国語(普通话)を習い、ご両親は台湾語(閩南語)と中国語(台湾國語)を混ぜて話し、しかしお祖父さんお祖母さんは歴史的経緯の結果として日本語が堪能という複雑な言語環境にいる著者が、国や言語について突き詰めて考察していくエッセイ。さまざまな葛藤を乗り越えてのものだというのは踏まえつつ、軽やかかつ柔軟にボーダーラインを越えて自分だけの言語を獲得している感じがちょっと羨ましい。私はちっちゃい頃、日本語のなかに英単語が混じると、ものっすごい叱られたんですけど、どうせ日本で暮らし始めたら日本語環境に染まるんだから、ママンは当時あんなしつこく怒ることなかったんでは? って思ってしまった(そこかよ)。複数の言語の表記の仕方が面白い。同じひとまとまりの文章のなかでも、著者が学校で習った中国語を活用して話す場面でのセリフは簡体字なのに対して、(おそらく)台湾人である自分を意識しての中国語での発話は繁体字で書かれていたり。ピンインや、台湾語をあらわすときにはカタカナも駆使される。それらが功を奏して、すごく場面を想像しやすい。
- 井上純一『中国嫁日記』第6巻(KADOKAWA,2016年12月)
ブログ再録と描き下ろしの進みがそろってないので、時系列面で少し混乱(5巻で決裂した人と仲良し)。今回の描き下ろしはつらいお話だけど、男性側視点で描かれたものはあまりないのでは。作者のお母さんが泣きながらも冷静におっしゃった言葉に重みがある。
- モンズースー『生きづらいと思ったら親子で発達障害でした』(KADOKAWA,2016年5月)
ブログで連載されてたエッセイ漫画の書籍化(書き下ろしもあり)。あまりにも周囲と足並みがそろわない子育て上での不安、わけが分からないことによる絶望と、一方で揺るぎないお子さんへの愛情、お子さんに療育が必要と判明しご自分にも診断が下って対処の道筋が見えてきたときの心の動きなど、かわいい絵柄で正直に吐露されている。主観的な語りだけど門外漢にも伝わるよう分かりやすく整理されており、作中でおおやけにすることとしないことの線引きも一貫していて、著者はとても聡明なかたなのだと思った。
- あしべゆうほ『クリスタル☆ドラゴン』第27巻(秋田書店,2016年9月)
去年出てたのいまごろ知って慌てて買った。冷徹な戦士として登場したはずのグリフィスが、旅の過程でじわじわと本当に人間味のあるひとになったねえ。でもこの巻の冒頭で、たぶんずっと未来のことが少し言及されていて、なんだか寂寥感。とにかく、26巻を読んだときにも似たような感慨を覚えたけど、1980年代からずっと読んでいるお話が、ファンも諦めていた中断期間を経て、いま「終わらせよう」という明確な意思を感じさせるように動いているということ自体に、感謝の念がある。