虫のいい日々

あぶはち取らずと言われても、極楽とんぼで過ごしたい。
<< August 2019 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
 
ここはなに?
ウェブサイト「虫の居所」の一部です。
管理人ならのが、そのときどきに考えたことや興味を引かれたもの、読んだものなどについて、心のおもむくままに、だらだらと綴るところです。心がおもむかないときは、更新停止しています。
これまでの日々
コメントされた日々
トラックバックされた日々
MOBILE
qrcode
 
2017年3月に読んだものメモ
  • 乾石智子『紐結びの魔道師』(創元推理文庫,2016年11月/表題作のみ『オーリエラントの魔道師たち』〔2013年〕初出)
     数年前の短編集から表題作だけ独立させて、さらに続編を足したもの。思えば初めてこの作者の本を読んだときには、キャラ立ちよりも世界の構築で読ませる、「世界萌え」させるタイプの人かなーという印象を受けたんだけど(そしてそこが好きだったんだけど)、その後けっこうキャラの個性でも読ませるなあと感じ出して、そしてこの連作短編集では、とにかく主人公の、魔道師に見えない物理的な戦闘能力がやたら高い魔道師が魅力的。ただ、それはやっぱり、土台になる世界観とか、魔道のしくみとかがしっかりと存在感を持っているからこそですよね。

  • 岸政彦『ビニール傘』(新潮社,2017年1月)
     表題作は社会学者である著者が初めて発表した小説作品にして第156回芥川龍之介賞候補作。似通っているけど少しずつ違ういくつもの人生を重ね合わせて、多層構造にして見せられた感じ。最終的には個々の層が一体化してたゆたいながらどこかへ吸い込まれていったような印象。生活のなかの質感や匂いがありありと感じられる描写と、大阪の街の具体的な地名が生々しい。
     併録「背中の月」は妻に先立たれた主人公視点で、本当によいカップルだったふたりについての回想と、残された彼の過ごす日々がゆっくり、淡々と薄まってほろほろと崩れていくさま。大阪弁での夫婦の会話が地に足のついた幸せをかもし出していて、喪失感が胸に迫る。


  • 松田青子『おばちゃんたちのいるところ』(中央公論新社,2016年12月)
     生と死の境目があっけらかんとぼやけて、明るくパワーがあって前向きな死者たちと、なにかと息苦しい世の中でもなんとか頑張ってる生者たちが共存する世界。独立したひとつひとつの短いお話が、時にははっきりと、時にはゆるい一点でさりげなくつながっていて、リンク箇所を探しながら読むのも楽しい。それぞれの短編には落語などの「元ネタ」があるんだけど、私の教養のなさのせいで全話についてアレンジ具合を味わいつくすことができず申し訳ない。でも元ネタ分かってなくても面白いです。

  • 米澤穂信『いまさら翼といわれても』(角川書店,2016年11月)
     久々の「古典部」シリーズ。きっと見過ごされたままでも表向きにはなんの波紋も生じなかったかもしれない小さな矛盾だけど、当事者の心は深くえぐるようないくつかの真相。青春はしんどい。これ、ここまで読んできてこのメンバーと彼らの学校生活にすでに愛着があるから余計にしんどいんだろうなあと思ったりした。みんなのこれからを読者が見届けることは、果たして許されるのだろうか(つまり、著者はどこまで彼らの今後の人生を書いてくださるおつもりなのだろうか)。

  • 岸政彦・雨宮まみ『愛と欲望の雑談』(ミシマ社,2016年9月)
     去年、読みそびれているうちに雨宮さんの訃報があって、ショックでますます保留しちゃっていたのですが、今月は岸先生の『ビニール傘』を読んだので、その勢いが残っているうちにと手に取りました。互いに尊重しあっていて、言葉を大事にする仕方の方向性が近しいおふたりだから、時に意見が合わなくても、真摯に語り合うことで和やかかつ刺激的な対談として成立しているのかなと思った。
     雨宮さんは、私にとっては、いつも途中までは「分かる分かる分かるめっちゃ分かります!」ってうなずくんだけど、そこから「え、それでそっちへ行く!?」みたいになっちゃう作家さんという印象で、でもそこをなんとか理解したいと思わせられる文章をお書きになるかたでした。この対談を読んでも、「あ、私とは根本的にタイプが違う人だ」ってとこがいくつも出てきて、でもすごく魅力的なんですよね。たぶん私には、雨宮さんみたいに自分を追い詰めるほどとことん突き詰めて考える素質がなくて、しかも考えずに動いて人生なんとかなってきちゃったんだよな。雨宮さんが送り出す鋭く繊細で硬質な(と私には思える)言葉を、岸先生がやわらかく受け止めて投げ返している雰囲気がよかった。


  • 獸木野生『PALM 39 TASK IV』(新書館,2017年3月)
     アンディ奪還のため暴走するジェームスを中心に、さまざまな人々のそれぞれの思惑が動く巻。そしてここまで来ても本当に今後の展開が読めない。ひとつ思ったのは、「オールスター・プロジェクト」のラスト(1991年初出、PALM 14)で、作中時間における主要キャラのずっと先の未来が語られたとき、アンディの最期があんなふうだったのは、今回のこの巻で受けた仕打ちのせいなのでは? ってこと。本来ならこの時点で彼は死んでいたのが、分け与えられた命のおかげで生きながらえていたけど、とうとうストックが尽きて、その時間のなかでは謎とみなされる過去の死因で息絶えることになったのでは? いや、ぜんぜん違ってて、今後そのへんの説明も作中でなされるかもしれないんだけど。
Posted at 14:14 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark
コメント
コメントする









 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://days.mushi.pepper.jp/trackback/1262103