虫のいい日々

あぶはち取らずと言われても、極楽とんぼで過ごしたい。
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2017年6月に読んだものメモ
  • 植本一子『家族最後の日』(太田出版,2017年2月)
     写真家でもある著者の、家族についての文章。実母との決別、義弟との死別が語られたあと、本書の大部分はミュージシャンである夫に癌が見つかって闘病サポートと子育てと仕事に追われつつがむしゃらに日々を過ごす話で占められる。
     前作『かなわない』と同様、かなり赤裸々に出来事や心情を、登場人物が特定できるかたちで綴っていて、こんなふうに書かれて困るひとや傷つくひともいるのでは、と心配になる。ただ、有名人でもないのに他人の目に触れるところではそういうことにちまちまと気を回して軋轢や反発を生まぬよう詳細を伏せたりぼかしたりしようとする私のようなタイプの人間には、こういう率直さや強い情動の感じられる文章は書けないんだろうなあ、みたいな諦念と羨慕を伴う爽快感みたいなものもある。
     夫婦それぞれにファンがつき見守っている人たちがいるなかで、夫が病気を公開した直後から、なにも更新してないのに妻のツイッターやインスタグラムのフォロワーがどんどん増えていったというくだりが生々しくてぞわぞわした。そしてまた、それでも夫婦どちらも、日々のことを公開せずにはいられないのだという事実にも打ちのめされた。


  • 宮内悠介『あとは野となれ大和撫子』(角川書店,2017年4月)
     中東の架空の小国の政変と、ふがいなく逃げてしまった大人の政治家たちに代わっての、英才教育を受けてきた少女らによる綱渡り的な建て直し。主人公の、有能なんだけどちょくちょくボケててテンポずれちゃう感じが、漫画のキャラっぽくて、なんだかコマ割が浮かぶ。漫画でよくある演出を文章でやるならこうするのかー、勉強になるなあ、というような。不安定な政情や環境問題をさくさく説明しつつスピーディーにお話が進んでそれぞれのキャラが強烈でほんのりラブコメ要素まであって、すごくエンターテインメント! って読後感。
     第157回(2017年上半期)直木賞候補。発表は7月19日。はてさて。


  • 川上和人『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』(新潮社,2017年4月)
     過酷な野外調査、大きなチャンスを逃した研究者としての一大痛恨事などの裏話に加え、外来生物の問題や生態系の保全に対する真摯な姿勢、そしてなにより鳥という存在の面白さを伝えようとする情熱が、容赦なく挟み込まれる(主にサブカル・オタク系の用語をそこそこ説明なく理解できる人にしか分からないかもしれないとも懸念される)唐突な比喩表現や、勢いのある韜晦表現でくるみ込まれている。真面目な話と「ボケ」の部分のシームレス具合が特徴的な文章で、素人にもとっつきやすく噛み砕いてくれている。

  • 今村夏子『星の子』(朝日新聞出版,2017年6月)
     病弱だった主人公を助けたい一心で、両親がすごい効能があるという特別な水をもらってくる序盤から、もう読んでる側は不穏な空気をびしばし感じるのだけど、やがて一家は新興宗教に嵌り、嵌れなかった姉は出奔し、親戚とは縁が切れ、経済的にも下り坂に……というのが、その状態を客観的には見られない、でも両親と同じ情熱を持って信仰に傾倒しているわけでもない主人公の視点から語られる。親子間の愛情と絆はしっかり存在し、友達と普通に過ごす学校生活もあり、でもやっぱりその宗教の外の世界とは嫌な感じにズレも生じていて、とにかくこの一家のこれからを考えると漠然とした不安な気持ちばかり湧いてくる。しかし語り口は一貫して悲壮感なく淡々としており、不穏な空気が維持されたまま、ラストシーンには静謐な幸福感さえただよっている。不穏なんだけど。
     第157回(2017年上半期)芥川賞候補作。発表は7月19日。
Posted at 15:06 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark
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