虫のいい日々

あぶはち取らずと言われても、極楽とんぼで過ごしたい。
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2018年6月に読んだものメモ
後半から、古典新訳文庫の消化キャンペーンでした(って、3冊ですけど)。


  • 王谷晶『完璧じゃない、あたしたち』(ポプラ社,2018年1月)
     間隔の空くウェブ連載は毎回楽しみにしていたのに、全部まとめてさらに書き下ろしを追加した単行本は読了にずいぶん長くかかってしまった。バラエティ豊かすぎて1編ごとに頭がインターバルを要求するので。私、短編集読むのヘタクソだわあ……。さまざまな語り口、さまざまなジャンルで書かれた23の短編すべて、メインに据えられているのが女同士の関係。ストーリーがことごとく予想外な方向に転がっていくと感じるのは、もちろん着想自体が斬新に飛躍しているからなんですけど、同時に、いかに自分がこれまで、男女で物語が構成される既存パターンに染まっていたかってことでもあるのではないかって思いました。ウェブで読んだときいちばん好きだった「友人スワンプシング」が、再読してもやっぱりすごく好きで、なんだろうこの若い女の子ふたりがかもし出す潔さとせつなさとハードボイルドな感じ。

  • 山口恵以子『食堂メッシタ』(角川春樹事務所,2018年4月)
     店主がたったひとりで切り盛りする、こぢんまりとした本格イタリア料理店。こんなお店があったらいいよねっていう、夢と理想が詰め込まれている感じ。学生時代に偶然チェーン店でアルバイトしたことをきっかけに、本格的な料理人への道を邁進しはじめた女性が、惚れ込んだ師匠のもとで学び、彼の片腕となり、初めて自分のお店を持ち、そこからさらに先のステップに進む直前まで。ストーリー的には王道なので喰い足りない印象もないではないのだけれど、とにかく出てくるお料理がひとつひとつ詳細に説明されており、どれもとても美味しそうなので、そっちで満腹感。終盤になって、お店の常連のなかに本書の出版元の社長である角川春樹氏がいるという記述があり、こういったお遊びには好き嫌いが出るでしょう(私は実はちょっと引いた)。しかしやはりこの著者は、才能ある女性が突き進むさまを書くとき筆致に勢いがありますね。

  • 張愛玲『傾城の恋/封鎖』(訳:藤井省三/光文社古典新訳文庫,2018年5月)
     1943〜1944年に発表されたエッセイ3編と小説2編。1941年の日本軍による香港への侵攻が背景として色濃い。表題作タイトルの「傾城」には敢えて一般的読みとは違う「けいじょう」というルビが振ってあり、読んでみるとたしかに、いわゆる傾城(けいせい)の恋という言葉で想像するような、その恋によって城が傾くといった物語ではなく、逆に城市(街)が壊れていくことで初めて完成形になる恋愛といったような話なのだった。意地と欠落を抱えた者同士の保身的なやりとりがひりひりする。少女時代からの家族との確執を綴った苛烈で感傷的なエッセイ「囁き」の随所に挟まれるアイテムの選択も巧いなあと思う。巻末の解説も充実。
     〔収録作品:「さすがは上海人」《到底是上海人》1943年/「傾城の恋」《傾城之恋》1943年/「戦場の香港――燼余録」《燼余録》1944年/「封鎖」《封鎖》1943年/「囁き」《私語》1944年〕


  • ジェローム・K・ジェローム『ボートの三人男 もちろん犬も』(訳:小山太一/光文社古典新訳文庫,2018年4月/原書:Jerome K. Jerome "Three Men in a Boat: To Say Nothing of the Dog" 1889年)
     原書は1889年発表。新訳が出ていたので久々に。日本語で通読するのは初めてです。久々に読んでも、こいつらほんと自己中なことばっか言ってぐだぐだしてんなー。でも旅はなんとかなっちゃうんだよなー。
     前に英語で読んだときには、なにか元ネタがあるんだろうけどと思いつつスルーしていた事柄に訳注がしっかり入っていてありがたい。巻末の解説や年表も。この著者は、これまで作品だけ読んで、いったい19世紀イングランドにおいて、どのあたりのコミュニティにいた人なんだろうかと、不思議に思うことが何度かあったんですよね。解説で経歴を初めて詳しく知って納得。けっこう激しいクラス移動人生だった。あと、本作で「僕」がモンモランシー(犬)を飼っているということ自体が、執筆当時の現実の著者よりも上の階級に属するキャラとして主人公を位置づけるための設定だったという話など、わりと目からウロコな感じ。彼が本当にペットを飼い始めたのは、もっとずっとあとなんですね。
     それと、この新訳版の翻訳者のかたがあとがきで、丸谷才一先生による旧訳版へ思いをなかなか熱烈に語っていらっしゃるので、いまさらですがそっちも読んでみたくなりました(実は旧訳版もかれこれ20年くらい家にある)。


  • C・S・ルイス『ナルニア国物語 阻盻兒佞里い〜』(訳:土屋京子/光文社古典新訳文庫,2016年9月/原書:C. S. Lewis "The Magician's Nephew" 1955年)
     1960年代から読み継がれてきた旧訳版の個性が、古いということを差し引いても強いので、どう訳してもすごく雰囲気変わるのは予想していましたが、最初は読んでる途中でどんどん脳裏に旧訳の記憶が湧いてきて二重写しみたいになって大変でした。
     いちばんインパクトが強いのは、主役の子供たちの言葉遣いが、かなり現代寄りになっていること。ただ、このお話自体が、もともと「昔のできごと」なんですよね。作中でもほかの巻で老人として登場する人の少年時代だし、いまの読者から見ればなおさら時代設定が昔なわけだし。旧訳版に引きずられているだけかもしれないけど、個人的には、微妙に古臭いくらいがイメージだったなあと。そこはちょっと好みが分かれるかと思いました。あのですね、旧訳の「とっかえ!」が新訳で「チェンジ!」だったことに、正直ショックを受けました(笑)。でも新訳も、きびきびとした読みやすい文章。いまのお子さんには、こちらのほうがとっつきやすいでしょう。
     新しく付いたイラストも、どこかユーモラスな動物たちの表情やダイナミックな構図が印象的で、原書の緻密で美麗な挿絵をそのまま使っていた旧訳版とはまた違った魅力が。
Posted at 17:50 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark
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