虫のいい日々

あぶはち取らずと言われても、極楽とんぼで過ごしたい。
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2019年3月に読んだものメモ
  • フィリップ・リーヴ『移動都市』(訳:安野玲/創元SF文庫,2006年9月/原書:Philip Reeve "Mortal Engines" 2001年)
     映画がすごく面白そうだったのですが近場でやってなくて機会を逃してしまったので、とりあえず原作小説を読んだ。とにかく都市が疾走し都市を喰らうというイメージが強烈。これに尽きる。機械仕掛けのなかに、現代の現実の町並みの特徴が混じり込むのも読んでてテンション上がる。主役の少年少女たちが、よい子すぎず、かといってひねくれすぎてもおらず、自然に肩入れしたくなる。大人キャラもアクが強く面白い。映画版も、トレイラーを見たかぎりでは、かなり気合を入れて映像化してるみたいだし、大画面で観たかったなあ。

  • 山口恵似子『おばちゃん介護道 独身・還暦作家、91歳母を看る』(大和出版,2018年11月)
     以前読んだ同じ著者の小説のヒロインが、このお母さまをモデルにしてるということで、それ読んだときも思ったんだけど、本当に著者はお母さまのことが大好きなんですね。だからこそ頼りにしていた相手が弱ってきて、どんなにか心細かったことだろう。気丈に献身的に介護を続ける日々の記録にも、体調不良に気を揉み、少しでも食事ができれば心から喜び……といった気持ちが切実ににじみ出ている。その一方で、自分がそんなふうに母娘で仲良しなのは、あくまでも相性によるもので、距離をあけたほうがいい親子関係だってあって、それもぜんぜん悪くないんだということを真摯に語っているくだりもあり、これまでの人生経験でいろいろ見てきてらっしゃるんだろうなーって感じ。ちょこちょこ入る「DV猫」さんたちのお話は、振り回されていても悲壮感なくてホッとする。

  • 飛浩隆『零號琴』(早川書房,2018年10月)
     初めて出会うようでいてどこか懐かしいような遥か未来の宇宙で、鮮やかなイメージがこちらに向かってぶつかってくるのに圧倒され押し流される感覚を味わった。作中の音楽や概念に、なんだか手で触れているかのごとき質感や重量感を覚えて、言葉に言葉が二重写しになって隠されていたものが顕現していく過程をわくわくしつつも息詰まる心持ちで読んだ。いくつもの層が積み重なった世界を、キャラクターたちは軽妙にたくましく生き抜いていて、彼らみんなのこれまでやこれからがとても知りたくなったけど、知らずにいるのもそれはそれで……という気もする。

  • Cixin Liu "Ball Lightning"(訳:Joel Martinsen/Head of Zeus, 2018年8月/底本:Tor Books, 2018年8月/原書:刘慈欣《球状闪电》四川科学技术出版社,2005年6月)
     14歳の誕生日に、突如発生した球電現象に伴い不可解な状況で両親を失った主人公・陈は、この特異な自然現象の正体を知るため研究の道に進むが、やがて武器を手にすることに異様なほどこだわる軍属の女性・林云に出会ったことをきっかけに、単なる気象研究の域を超えて、国の兵器開発プロジェクトに巻き込まれていく。試行錯誤を繰り返しながらこの世の法則を新たに見出そうとしていく際の、目指すところにたどり着けないのではという絶望が、光明が見えたときの興奮に変わっていくプロセスに引き込まれつつ、一方では「知りたい」という単純な欲求の成果が人殺しに転用されてしまうことや、惹かれた相手が殺戮行為に「美」を見出していることに対する陈博士の葛藤もトレースすることになる。全体的には殺伐とした世界なんだけど、最後にはロマンティックで感傷的な余韻も。
     一応、電子書籍内の情報だとこの英訳版は最初2016年にTor Booksから出版されたことになっているんですが、Torのウェブサイトによると、初刊行も2018年のようです。


  • チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』(訳:斉藤真理子/筑摩書房,2018年12月/原書:조남주(Cho Nam-joo)『82년생 김지영(Kim Jiyoung Born in 1982)』Minumsa Publishing Co., Ltd., 2016年)
     真面目に堅実に生きてきた女性が、社会からの「女性」へのプレッシャーにじわじわやられていく過程が淡々と語られる。ひとつひとつの事例が、ああ日本でもあるよね、ありうるよね……と驚くほど似通っていて、自分の過ぎ来し方のあれこれも想起してしまう。
     私は作者やこの主人公よりも上の世代で、まあ隣接する国同士とはいえ前提条件は違うだろうけど、でも主人公の母親や女性上司が、娘や部下がやりたいことをやろうとするのを応援する姿勢を見せているのは、心強いよねって読んでる途中では思っていました。私自身は若い頃、性別を理由に活動に制限をくらった場合に、上の世代の女性からそういうふうに個人としての意思の存在を肯定されたという実感は正直あまりないので。でも結局この作品のなかでも、がんばってたはずのほかの女性たちだってしんどい状況に追いやられていくし、主人公をサポートしてくれようとした善良な男性たちにだって理解の限界があったりする。そして最後の一文にこめられた、いっそ小気味よいくらいの皮肉。
     現在の私はもう、自分自身のためにはすでに戦うことをほぼ諦めてしまってぬるま湯に浸かっている自覚がある臆病者だけど、せめて下の世代に古い価値観を継承することだけはしないよう、ここで断絶できるよう目の届く範囲では心がけなければと、現状ではさほど状況改善に貢献できていないうしろめたさとともに、改めて考えました。作中の、はっきりと過酷で理不尽な環境を生き抜いてきた上の世代の女性たちが、決してそれを若い世代にも押し付けようとはしていないところに作者の抱く希望を見るのは楽観的に過ぎるだろうか。少しずつだけど時代は動く。こういう作品が世に出て広く読まれることも含めて。
     あと、キム・ジヨン氏が作中冒頭のような状況になるのって、一見「壊れて」いるんだけど、その周囲を困惑させる壊れ方自体が、それまでの積み重ねへの反撃になっており、フィクションとしては軽妙さが感じられてちょっと痛快でもあるんだよな。


  • 西岡文彦『語りたくなるフェルメール 教養としての名画鑑賞』(角川書店,2018年12月)
     現存する作品を、たとえば登場人物の顔で分類して、同じ顔立ちの女性が何度も出てくることを確認し、さまざまな背景要素からフェルメールとの関係を推測したり。題材へのまなざしや構図、光の当て方から、この時代の新しい思想や生活感覚を読み解いたり。「こういう作品がありますよ」という入門段階からもう少し踏み込んだ感じの、初心者向けガイダンス。図版の入れ方が異様に親切(話題に上るたびに同じ図が出てきたりもするので最初は重複しすぎでは? って思ったけど、たしかに分かりやすいのは分かりやすい)。


  • よしながふみ『きのう何食べた?』第15巻(講談社,2019年3月)
     よそんちの子に久々に会うと一気に大きくなってて「文章でしゃべった!」ってすごい分かる(笑)。つい最近自分も入学祝い問題で悩んだので筧先生に超共感です。お菓子作りに目覚めた千波さんはこの巻でも自分が作ったおかずは不味いと思ってるんだなとか、ケンちゃん担当の夕食は自制したバージョンでもやっぱり筧先生のメニューよりは微妙にこってりしてるよなとか、相変わらずキャラと紹介されるレシピが矛盾しないのが好き。よそんちの子が大きくなっていく一方で、自分の親もだんだん歳をとっていって、今後のことを真面目に考えざるをえなくなっていく流れとか、もう本当にそうですよねって感じで。1巻のまだ若々しかった頃から考えると、ここまで来たか、と主役のふたりを近所の知り合いみたいに思ってしまう。

  • あしべゆうほ『クリスタル☆ドラゴン』第29巻(秋田書店,2019年3月)
     アリアンロッドのなかに秘められた力は、どう発現していくのかまだまだ分からんですね。グリフィスは、薄々やばいことを分かっていてもバラーへの忠誠は揺らがないのだなあ。どんどん、あちこちにちらばってた物語の要素が集結していく感じ。

  • 獸木野生『PALM 41 Task VI』(新書館,2019年4月)
     存在そのものが薄れてきているジョゼからの、フロイドへの信頼が切ない。ふたりで幸せになってほしいけど無理っぽいよう。そしてその謎の化学物質は、どう物語に絡んでいくんですか、その最後のページはなんなんですか、というところでたぶん1年後に出る次の巻へ。
Posted at 16:19 | permalink | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark
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