2019年4月に読んだものメモ

  • フランシス・ハーディング『カッコーの歌』(訳:児玉敦子/東京創元社,2019年1月/原書:Frances Hardinge "Cockoo Song" Macmillan Childeren's Books, 2014年)
     語り手の少女の記憶がおぼろげでなにがなにやら、というところから始まり、序盤はずっと異常な状況下で不穏と不安がわだかまるような息苦しい雰囲気が続いていくけど、事情が見えてくるに従い、物語はどんどん加速していく怒涛の展開に。よくあるパターンだと脇役ポジションに置かれるような子の視点で話が進むのが目から鱗で「そう来たか!」って思った。懸命に粘り強く事態を打開しようとがんばる姿が健気で応援したくなる。最初は主人公への態度が酷かった奔放な妹ちゃんも、だんだんその率直さが好きになってくる。主役を含めて、どの登場人物にも最初に出てきたときの印象とは違う側面があり、その部分に対して作中では善悪のジャッジがくだされない。すべてを切り分けず切り捨てず、包括していく感じ。日常のすぐ隣にある異形のものたちの暮らす場所の存在がまざまざと脳内で映像化されて背筋がぞわっとするんだけど、同時に、恐ろしく不気味なものの向こう側を見据えた奥には、それでも目をそらすことのできない魅力的ななにかがあるのだ、そういった多層性の提示が世界を豊潤にしているのだというようなことを読みながら考えていた。

  • 小野秀樹『中国人のこころ 「ことば」からみる思考と感覚』(集英社新書,2018年12月)
     あいづちやあいさつなど、ちょっとした言葉の使い方に潜む考え方や感性について、具体的な実例が多く挙げられていて面白かったです。そこそこ心当たりのある話も。特に終盤の「有点儿」の用例について説明したくだりで、これまでずっと少し疑問に思っていて複数の中国人のひとに質問したけどいまいち納得いく答えがもらえてなかった(時には、なにに引っかかっているのかすら分かってもらえなかった)、まさにその点がすっきりと整理され説明されており、ひとまず私のなかで決着がつきました。日本語ネイティブスピーカーが中国語学習中にそこはかとなく感じる戸惑いへの答えは、日本語ネイティブな中国語達人に教えてもらうのが近道だったんだ。ありがとうございます。

  • 絲山秋子『夢も見ずに眠った。』(河出書房新社,2019年1月)
     一組の男女の、24年間にわたる夫婦であったりなかったりの軌跡。惹かれあうところ、歯車が合わないところ、それぞれの抱える欠落と特別さ、タイミングの皮肉といったものがただ静かに提示され、互いに大切な存在でありつつ分かりやすい関係には落ち着けない流れに、一抹の寂しさ、そして開放感が。ふたりのうち一方が鬱病になったときの描写にやたら説得力があったのと、舞台となるさまざまな場所に関するうんちくが詳しくて興味をかきたてられたのが印象深かった。

  • 絲山秋子『絲的ココロエ 「気の持ちよう」では治せない』(日本評論社,2019年3月)
     この著者の小説やエッセイ集をちょこちょこ読んではいたけど、本書を手にとるまで絲山さんご自身がASDの特性を有し、双極性障害とつきあいながら生活してらっしゃるというのは知らなかったのです。平易な文章でいろいろ書いてくださっていて、現時点でメンタル不調の診断を下されていない者にも、コンディションを整えるために実践してらっしゃるノウハウなどはかなり参考になるのでは。また、当事者周囲の人間がどういうスタンスでいればいいのかのヒントも与えられたように感じます。カウンセリングでかえって混乱がもたらされ体調改善にはつながらなかったという記述なども、なるほどそういうこともあるのか、使いどころを見極めないといけないんだなと勉強になりました。「躁」のときの状態を当人の視点から語ることの難しさが吐露された部分では、その、プロの作家さんでも難しいのだという事実そのものに蒙を啓かれる思いが。

  • 原武史+三浦しをん『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』(角川書店,2019年2月)
     個人的には思いも寄らなかった組み合わせのおふたりによる、5回にわたる対談(「遠足」1回を含む)。ちょうど「生前退位」の意向が発表された2016年夏から、いよいよ平成の終わりが見えてきた2018年夏の時期の企画で、天皇家の歴史を研究している原さんに三浦さんがどんどん率直な疑問をぶつけていく流れに。ぽやぽやした私などは、最初に「お気持ち表明」の話が出たときも、「そりゃまあ、そろそろ隠居したいお歳でしょうしね」くらいの感想しかなかったんですが、原さんは直後から、事態の特異さ、このことが政治利用される可能性など、すごい脳味噌高速回転って感じで思い至ってらして、それを三浦さんが、うまく噛み砕いた言葉で引き出すように持ってってる。三浦さんってほんとインタビューお上手ですよね……。昭和天皇の政治的立ち回りとか、過去の皇后たちのポジションとか、いままで正直あまり考えてなかった視点が得られて興味深かった。そしてその合間合間に挟まれる、原さんの鉄オタトーク、団地オタトーク。これもお相手が三浦さんだったからこそ拾えているんじゃないかな。こういう発言がしっかり収録されてることで、対談の記録がぐっと活き活きする感じ。

  • 植本一子『フェルメール』(ナナロク社 BlueSheep,2018年10月)
     欧米各地のフェルメール全作品を、可能なかぎり所蔵している美術館のある現地に行って鑑賞し撮影するという贅沢な企画(反面、かなりの強行軍なのでせっかく海外の街を訪れたのにほぼ美術館しか見ずに離脱してる日もあって、もったいなくもある)。作品たちが普段どんなところで、どんなふうに人々の視線を受けているのかといったことは、そういえば絵画そのものにばかり意識が行ってて、深く考えたことなかったかも。掛けられた壁の色は? 窓からの光はどう入る? 日本のよくある美術展示とは照明センスが異なる施設も。たしかに、日本で作品が集められ開催される展覧会とはまた、見え方が違いそうです。
     いつも直感に牽引される繊細で奔放な筆致が印象的な植本さんが、撮影とコメントを両方担当。敢えて予備知識を仕入れないまま作品と対峙するのだけれど、さすがプロの写真家、構図や光の描写などについて初見でもツボを押さえた感想が。一方で、あの「真珠の耳飾りの少女」を観て、タイトルにある真珠に着目せずに外に出てしまったことにあとで気付いたりと豪快なエピソードも。まあ、あの少女は印刷物で見ても目力が強すぎですもの! 視線が合ったらもうそこばっかりになる感じは分かる。一般公開されていないバッキンガム宮殿内の作品を観に行くときは、撮影者として入るだけでもドレスコードがある、なんていうこまごまとした話も面白かった。


  • 中島恵『日本の「中国人」社会』(日経プレミアシリーズ,2018年12月)
     タイトルどおり、近年ますます増えている日本で生活する中国人に取材。具体的に突っ込んだ話がたくさん出てきて興味深い。同じ場を共有する一方で、評価の高い中華料理店がまったく重ならなかったりと、同じ街にいても日本人同士、中国人同士で固まりがちである面などにも指摘が。全体的に、どんどん経済的に発展しつつある中国から来た人たちは、ほぼ皆さんすごくパワーとバイタリティがあって、お子さんの教育にも(一般的な日本人感覚で言えば極端にも思えるほど)熱心で。休む暇もなく努力と研鑽を続けコネクションを作っていくのが当たり前のような価値観で。圧倒される。中国が、人口が多いなかでの競争社会なのだということがよく分かる。ただ最後のほうで、社交的な性格ではなく一人で静かにお茶することで英気を養うタイプの人が、だから日本のほうが暮らしやすいと言っている例なども紹介されており、ですよね、中国広いし、そういう人もいますよねって、なんかホッとした(笑)。もちろんその人だって国境と言語の壁を越えて居場所を確保できるだけの優秀さは備えているわけだけど。そして接するときにはお互い、中国人はこう日本人はこうといった一括的な捉え方をせず個人として対話していこうという、著者による締めくくりが身に沁みた。
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