2019年9月に読んだものメモ

  • ジョー・イデ『IQ2』(訳:熊谷千寿/ハヤカワ文庫,2019年6月/原書:Joe Ide "Righteous" 2017年)
     前作の最後で出てきた手がかりをもとに、兄が轢き逃げされた事件の真相について改めて探っていく過程と、生前の兄の恋人だった女性の依頼で、トラブルに突っ込んじゃった彼女の妹を助けに行く話が、交互に語られる。主人公アイゼイア・クィンターベイ(IQ)の人生を大きく捻じ曲げた兄の死がクローズアップされることもあり、前作よりもIQの人間的に頑なまま固まった部分、強い憎しみに突き動かされるような部分も克明に描かれる。一方、ムショ帰りのちゃらちゃらしたチンピラだった相棒のドッドソンが、堅気な伴侶を得て更生し、なかなか安定感のあるキャラクターになっていて、コンビの印象が入れ替わるかのよう。反発したり張り合ったりしながらも、ふたりの掛け合いはやっぱりテンポよくて、対等な相棒感が板についてきたところで、今後も一緒にやっていきそうな流れになって、これはもうシリーズどんどん続けていくんですね?

  • 高山羽根子『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル』(集英社,2019年7月)
     主人公が子供の頃に目にしたものが、長じるにつれ再度現れ意味を持ち、うまく捉えきれず表出させられずにいた感情が、そのたびにだんだんとしっかりとした輪郭を帯びていくさまが、静かできれいで強いイメージを伴う言葉で綴られていた。※第161回(2019年上半期)芥川賞候補作のひとつでした。

  • 山崎ナオコーラ『ブスの自信の持ち方』(誠文堂新光社,2019年7月)
     タイトルの印象とは違って、別に心のコントロール法を指南するようなハウツー本ではありません。主にルッキズムへの反論に絡めて、社会の風潮に対する疑問や過去の納得いかない体験の吐露など。著者についてはデビュー時にインパクトあるペンネームだなーとびっくりした記憶はあるんだけど、当時ここに書かれているようなことがあったとはまったく知らなかった。でも、いかにもである……あの頃(いまもか?)のネットの空気なら。そういうのはつぶしていかんといかん。人の尊厳は守られる必要がある。著者が社会を変えたいっていうのは、正しい。自分が変わっても仕方ないんだよ。自分がいまの社会で攻撃されない存在に変化しても意味がない。実質的には誰にも迷惑かけてない相手を寄ってたかって攻撃するのはよくないことだという空気が形成されなくてはならない。収録されてるエッセイは、とても真面目で、ちょっと堅苦しく抹香臭いところも感じられる。でも、真面目に論じなければならないテーマでもあるんだろう。そして本書全体の感想としては「公平を期して中庸を目指すこと、意識してニュートラルであること、それ自体もまた思想的だな」ということを再確認した。

  • 植本一子『台風一過』(河出書房新社,2019年5月)
     石田さんが亡くなってからの公開日記。途中に空白期間も。植本さんは、お葬式後のほうがかえって石田さんのことを静かに深く考えているようにも思う。あんなにも魂がもつれあったような複雑な関係の人を喪うというのが、いかに大変なことであるか。そして、新しい出会いも。もともと、とても人に対する感情の動きが豊かなかたなんだろうな。だからこそ、シングルマザーとなった植本さんとそのお子さんたちを、さまざまな人たちがサポートしようとしているんだろうな。
     お嬢さんたちは、血のつながらないたくさんのクリエイター気質の大人たちに囲まれて、世間一般からすれば珍しいと言われる環境で育つことになるし、小さいうちは、お友達の多くと違う生活に葛藤することもあるかもしれないけど、これだけ周囲に慈しまれているのだから、きっと大丈夫だろうなと思える。半ば祈りも込めて思うことだけど。
     今年の4月に読んだ『フェルメール』の撮影旅行中の日記が入っていて、あのとき撮影終了後はこんな感じで街歩きしていたのか、と興味深かった。お子さんたちを預けて海外出張に出たら初めて涙を流せるようになったくだりに胸を衝かれた。


  • Baoshu "The Redemption of Time: A Three-Body Problem Novel"(訳:Ken Liu/Head of Zeus, 2019年7月/原書:宝树《三体X:观想之宙》重庆出版社,2011年)
     前書きでの経緯説明によると、日本でも今年ようやく第1部の邦訳が出て話題になってる劉慈欣『三体』シリーズが本国でついに完結してしまった2010年、まだまだこの世界に浸っていたかったファンのひとりがネットで公開し、大反響を呼んだ2次創作小説。著者のかたは現在はご自分もプロのSF作家として活躍中らしい。
     原作者が公認し、原作と同じ出版社から刊行され、原作の1部と3部の翻訳を手がけたケン・リュウが英語に訳して世界に紹介って、ファンフィクションの扱いとしては恐ろしいような最高待遇なのでは。でも著者は、ほかの『三体』ファンはこれを解釈違いだと思ったら受け入れなくていいし、本書が正式に原作の続編になったと主張するつもりはない、と謙虚な断り書きを入れています。
     最初のうちは、雲天明×艾AAかー、個人的には萌えない組み合わせなんで具体的に描写されるとしんどいんだよねー、ぶっちゃけ私は艾AA×程心(百合)推しだしー、などとカプ厨的なことを考えながら読んでましたが、天明がどんどん超人化していってびっくり。この作者さん、天明が大好きで、程心(原作第3部主人公)のことは、わりと嫌いなのでは!?
     ――と、いうようなことはさておき。ストーリー的には、原作を独自の発想で補完して、さらにその後のことを語るもの。原作内で提示された事象の見え方をがらりと変えてしまう大胆な解釈も。そしてどんどんスケールを大きくしていって、最終的にはアクロバティックでありつつも、ある意味王道的とも言える帰結に落ち着いたのではないでしょうか。あらすじをひたすら説明していくっぽい急ぎ足の筆致だなーと感じたところもあったけど、とにかく「あ、原作で語られずに終わったあそこの欠落を埋めていくのか!」という驚きと、大風呂敷の広げ具合を評価すべき作品かと。全体としてはとても楽しかったです。これを(商業出版が決まってから手直しはしただろうけど)原作の第3部が出てから1ヶ月ほどで書き上げたって、どんだけの熱量だ……と、もうそれだけで感嘆。
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