2019年10月に読んだものメモ

  • 川瀬七緒『スワロウテイルの消失点 法医昆虫学捜査官』(講談社,2019年7月)
     シリーズ7作目、でいいのかな。前作で赤堀先生といいコンビだったプロファイラー広澤先生は今回裏方仕事に徹して、同じ捜査分析支援センターの技術開発担当である波多野さんが現場に同行。また岩楯刑事の相棒ポジションにつく警察官が、今回はかなり癖のある若者。この、もともとは法医昆虫学に疑念を抱いているふたりが、それを認めるようになっていく。
     このシリーズは、犯罪現場で採取された虫たちを調査することによって真実が追究されていくプロセスと同時に、この新しい捜査方法が、この作品世界のなかで徐々に支持を得ていくプロセスを描くものでもあるのだなと改めて。あと赤堀先生が、ときに常識はずれな言動をとり、目的のためには打算や駆け引きも辞さないタイプではあるんだけど、根底の倫理はちゃんとしていてマッドサイエンティスト的ではないところに安心感がある。
     本作では通常の捜査で歩き回る刑事班と、昆虫から推理を進める支援センター班の行動があまりクロスせず平行線で同じ方角へ……という感じなのがちょっと寂しい気もしたけど、これはこれで、それぞれ別のアプローチで同じ真相に近づいていく構成がスリリング。


  • 川上弘美『某』(幻冬舎,2019年9月)
     誰でもない、未分化な者としてあるときから存在しはじめた語り手が、さまざまな「人」に成り代わりながら変遷し、時代の移り変わりのなかでも存在しつづけ、挙句の果てにはだんだんとその「何者でもなさ」からさえも変容していく。途中までは伴走していた人間たちも、いつのまにか置き去りにされる。異質な者としての複数の「人生」を経て、ようやく出会った仲間としての異質な者たち同士のあいだですら、さらに生じる異質。どこか寂しいような、暖かいような、しんとした読後感。

  • 綾瀬まる『森があふれる』(河出書房新社,2019年8月)
     抑圧されてきた感情、とりわけ「怒り」が、身体のなかからの発芽そして森の形成として具現化するというのが、感覚としてすごく分かるし、ビジュアル的にも惹かれるものがある。社会的な規範やステレオタイプの刷り込みが膜のように作用して気持ちが届かないもどかしさに共感し、しかしそれでも相手を諦めきれない、愛情を手放さない意志と、双方からの歩み寄りへの希求があるところに希望を感じる。美しい。

  • 新井素子『星から来た船(上)』(出版芸術社,2019年5月/親本:集英社文庫コバルト・シリーズ,1992年)
     「星へ行く船」シリーズ番外編、麻子さん視点による前日譚。太一郎さんとレイディ(この頃はまだそうは呼ばれてないけど)のなれそめ編でもあるわけで、本編でその後のことを知っているので、いま読み返してもちょっとせつないね。
     リライト版恒例のおまけ巻末短編は、太一郎さんが地球にいたとき、養育係(?)として雇われていた女性が語り手。少年時代の太一郎さんの聡明さと不器用さ、注がれていた愛情について。


  • 新井素子『星から来た船(中)』(出版芸術社,2019年6月/親本:集英社文庫コバルト・シリーズ,1992年)
     27年を経てリライトされた新版の続き、思い込みとうっかりと偶然の一致が重なってどんどん事態が混迷を極めていく中巻。かなり内容を忘れてましたが、そうそうこんな話でした。巻末書き下ろし短編は、事件が片付いた約半年後、料理に関することがからっきし駄目な太一郎さんと所長を麻子さんが語る。こういった、仕事では有能だけど家庭内での生活能力のない男性を可愛く思って甘やかすように受け止め、誇らしそうにする女性像っていうのは、いまどきのヒロインにはあまり見られない、わりと昭和な感じがあって(この話は平成に入ってから出てるけど)、いくら綿密にいまどきの若い人にも話が通じるように未来社会の設定をリライトしても、根本的な価値観みたいなのは同じ物語世界で同じキャラなんだから継承されるし、やっぱりノスタルジーとともに読むことになるよねってしみじみしたり。
     それと、太一郎さんと真樹子さん(レイディ)のラブストーリーは、最終的に太一郎さんと結ばれるあゆみちゃんを裏切ることになるから書けないという、あとがきでのお話、とても新井さんらしいと思いました。若かりし頃のこのふたりはこのふたりで、すごく痛快なエピソード満載の最強カップルではあったはずなんですけどね、仕方ないね。


  • 新井素子『星から来た船(下)』(出版芸術社,2019年7月/親本:集英社文庫コバルト・シリーズ,1992年)
     あれよあれよとあっちもこっちも丸く収まる下巻。巻末おまけ短編は、「星へ行く船」シリーズ全体を俯瞰してのおまけ短編とも言える内容、でもやっぱりシリーズ番外編である本作のさらなる番外編としても成り立つ麻子さん視点。
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