2020年2月に読んだものメモ

  • 米澤穂信『巴里マカロンの謎』(創元推理文庫,2020年1月)
     帯の「11年ぶり、シリーズ最新刊!」という惹句に戦慄。そうか、もうそんなに。しかし作中の時は進んでおらず主役のふたりも相変わらず「小市民」を目指す高校生です。地名を冠したお菓子をめぐる謎のお話が4つ。番外編集という位置づけになるのかな、季節縛りタイトルの本編シリーズと比べて、冷徹な毒気はほんのちょっぴり垂らす程度。日常に潜むパズル(と、いちいちこねまわされる小鳩くんの理屈)および美味しいお菓子(と、それらに一喜一憂する小佐内さんの可愛さ)を素直に堪能しました。「冬期限定〜」も、気長にお待ちしています。

  • 米澤穂信『Iの悲劇』(文藝春秋,2019年9月)
     一度無人化した集落に、移住者を募って地域をよみがえらせようという、いわゆる「Iターン」企画を担当することになった公務員の視点で進む、謎解きものの連作短編集。新しい住人たちはそれぞれ個性が強く、不可解なトラブルが次々と発生する。飄々としているようで時たま鋭い課長や、有能さは垣間見えるけどお調子者の後輩女性に翻弄されつつ、主人公は真面目に職務を果たそうとしているんだけど、ところどころのなりゆきに、なんとなく違和感が。そして最後に……。復興を謳ってもなかなか理想どおりには行かない地方行政のシビアな現実とか、実際にもこういう問題はあるんだろうなと考えてしまって、しんどさが残る。都会に出ている弟との意見の対立も、双方の言い分が理解できてしまってジレンマに陥る。この主人公は今後どうするのか。理念を持って公務員をやっている善良な彼に幸あれと願う。

  • 梶谷懐+高口康太『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書,2019年8月)
     経済学者と、中国事情に詳しいジャーナリストの共著。あらかじめ白状しておきますが、読んだことをちゃんと理解できてはいないなという自覚はあります。ただ、テクノロジーによる総合的な管理と監視とスコアリングでいろいろ便利かつお行儀のいい社会になりつつあることに、現地の人たちは総じて肯定的で個人情報を取られまくることにも抵抗ないみたいだよなっていうのは、私自身が直接の知り合いのようすから常々感じていることでもあった。
     実際の運用例を読むと、思った以上にガツンといかず緩やかに行動を一定方向に促すような反発を誘引しない巧妙なアルゴリズムが導入されている。一方で、(本書が出てから半年のあいだにまた微妙に事情が変わってきてても不思議はないけど)少なくとも執筆時点では地域行政主導のスコア制の実効性がいまいちだったりという個人的には少し意外な実態も。そして、時に社会秩序を保つための予測的な功利主義が暴走して、現実の人間の尊厳をないがしろにしていないかという「監視を監視」するような仕組みが不足していれば、ウイグル自治区での非人道的なやり方のような問題が生じてくるってことなのかな。
     どこの社会でも、テクノロジーが便利さを連れてくるなら、それは受け入れられてしまうだろうというのは分かる。そして門外漢である一般庶民にとっては、その中身はブラックボックスだというのも。だからこういったことは、かの国のみに特有の対岸の火事のような現象だと片づけてはいけない。
     また本書でも指摘があったけど、たしかに私自身も中国のあれこれのエピソードを聞いてて時に危うさを感じる一方で、問題が出てくればそこで修正すればいいのさ〜みたいなカジュアルさで新しい試みがどんどん実施されていくスピード感に驚嘆する気持ちもあるんですよね(最近のウイルス対策がらみでもちょっと思ってる)。そういった新しくできてしまったものを、なかったことにはできない。しかしそれがどう扱われているかに人々が無関心だといつか怖いところに落ち込みかねないのだろうな、と。どこまで、社会全体でフィードバックをかけていくことができるだろうか。


  • 千葉雅也『デッドライン』(新潮社,2019年11月)
     第162回(2019年下半期)芥川賞の候補作でした。修士論文の執筆が難航しているゲイの青年の、締め切り(デッドライン)までの日々。授業に出たり刹那的な出会いを渡り歩いたり友人たちと交流しつつ少し醒めた目でいたり実家の事情による生活の変化に対処したりといった事柄が、断片を並べていくように綴られる。
     授業で話題になった荘子の逸話が、現実の生活のなかでの出来事と重なるなど、すべての事象がつながっている感じ、自分と他者の視線が交わる・対立する・同化する・入れ替わるような、ぴこーん! と直感が走る感じ(めちゃめちゃ頭悪そうな表現で申し訳ない)を、「生々しい」と感じた。


  • 村山早紀『かなりや荘浪漫 廃園の鳥たち』(PHP文芸文庫,2019年11月/親本:集英社オレンジ文庫,2015年3月)
     行くところのない最悪状態のなか、幸運と自らの気立てのよさの帰結としてたどり着き迎え入れてもらったアパート。ただただ個人的な趣味として絵を描きつづけていて自分の才能に気づいていなかった少女が、そこでの出会いをきっかけに、プロの漫画家を目指すようになる。生きてる人間にも死んでる人間(幽霊)にも、それぞれの思いと抱える過去が。今後は、今回クローズアップされた人たち以外についても、さらに詳しく語られるときが来るのかな。検索したら続編が出ていたので近々読むと思います。主人公が、とても健気でいい子。
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