2020年4月に読んだものメモ

  • 凪良ゆう『流浪の月』(東京創元社,2019年8月)
     今月発表があった、2020年(第17回)本屋大賞受賞作。第三者の目には「加害者」と「被害者」でしかないふたりが、一度は引き離されても年月を経てふたたび出会い、しかしやはり一方的な糾弾にさらされる。当事者にしか分からない「真実」を拠りどころに、世間を遮断して逃げ続けるような彼らは、この出会いがなければきっと双方、生き延びることはできなかった。繊細で美しい話ではあるけれど、同時に、危うくもあるな、という感想もぬぐえない。この物語の彼らの言い分を認めるなら、間違ったものなんて、この世にはなにもない、ということになってしまう。すべては当事者の主観の問題だ。でも、本当に? そう感じてしまうのは、たぶん読み手である私が、確実にこの主人公たちによって、背中を向けられる側であるからなんだけど。決して入れてもらえない世界を持つ彼らに、拒絶される側。たとえどれだけ、彼らを好きになったとしても、手を差し伸べようとしたとしても、入れてもらえない。一方で、逃げると決めたその先にある、自分たちの真実だけを本当にしていていい世界が提示されているこの作品で、救われるひと、呼吸がしやすくなるひとも、絶対にいるだろうということは分かる。

  • 尾崎俊介『ハーレクイン・ロマンス 恋愛小説から読むアメリカ』(平凡社新書,2019年12月)
     アメリカ文学研究者が、ペーパーバックの出版史を調査していくなかで有名な女性向け恋愛小説の叢書に着目した成果を一般向けの新書にまとめたもの。このジャンルでは代名詞のようにさえなっているハーレクインですが、私はロマンス小説を系統立てて読んだことはないので、初めて知った事実がたくさんありました。そもそも、いまではアメリカのものというイメージがあるハーレクインが、もともとカナダの会社で、初期はずっとイギリスで書かれた作品ばかりを出版していたことも本書を読むまで知らなかった。「量産型商品」としての小説にも、というかそういう小説だからこそかもしれないけど、時代をくっきりと反映した歴史が脈々と存在するのだなあ。あと導入部分で、男性である著者が四半世紀ほど前に書かれた女性向けロマンスを初めて読んでみて、ストーリー展開にいちいち驚くくだり笑いましたが、愛読者たちの熱意にシンクロはできないながらもこのジャンルを独自の文化として尊重する姿勢は一貫しており、好感を持ちました。

  • 妹尾ゆふ子『翼の帰る処 番外編2 ことば使いと笑わない小鬼』(幻冬舎コミックス,2020年4月)
     1冊目の番外編集と同じく本編で脇役だったキャラ視点のお話が2つと、最後はすべての締めくくりになるような、「帰って」きたヤエト視点の短いお話。最初の表題作は、砂漠の国の古くからの言い伝えと、後世の者たちによる意味の見出し方に関する問答のくだりがとてもよかった。
     皇女と、1作目の主人公ファルバーンは時系列順に並ぶ3編すべてに登場。生い立ちと置かれた状況から、最初はツッコミ力の高いドライな思考パターンの陰でどこか自己否定気味で所在なさげでもあったファルバーンが、能力を発揮できる役割と居場所を得て落ち着いていったようすがあとの2作で垣間見られてホッとします。個性的な学友たちに囲まれたキーナンの学園生活を描く2作目も楽しかった。彼も真っ当さとしたたかさを兼ね備えた末頼もしい若者だ。
     それと改めて、シリーズ全体を通じて皇女の屈託ない心根の明るさや強靭さと、ヤエト先生の隠居したいと言いつつやるべきことに手を抜けない誠実さが、なんだかんだと周囲の人たちの気持ちを巻き込んで物語を進めていったのだなあ、みたいな感慨が。みんなヤエト先生大好きだよね。どこまでその好意が伝わっているのか心もとない感じまで含めて。


  • パオロ・ジョルダーノ『コロナの時代の僕ら』(訳:飯田亮介/早川書房,2020年4月/原書:Paolo Giordano "Nel contagio" 2020年)
     発売前にネットに出ていた期間限定無料公開版で読了。2月から3月にかけてイタリアで書かれたものが4月には日本で商業出版されるというのは、かなりスピード感がありますね。日常生活を中断され空白のなかに置かれた作家のなかで流れる思索が、リアルタイムで項目ごとに実況されていくのを一緒に追いかけていくように読んでいると、静かな筆致のおかげでちょっと心が落ち着いてくる気がする。いまのこの世界を、個人の置かれた状況、地球規模の因果のめぐり、グローバルな社会の転換などさまざまな切り口で多角的に捉えて整理していく視点。そしてまた、事態が収束したあとの世界のあり方についての視点。高をくくって楽観視することで手遅れになったあれこれを覚えておくこと、これをきっかけに前進と言える方向に動いた価値観の変遷を巻き戻さないことの大切さの確認。自信はなくても考えつづけていこう、という決意表明まで読んで、襟を正すような心持ちになった。まさにいまのこの特異な時期の世界を切り取る書物なので、まさに「忘れない」ためにも持っておきたいような気持ちになって書籍版も買いました。



 新型感染症COVID-19をもたらすウイルスSARS-CoV-2のせいであれこれと予定がキャンセルされたので、空いた時間でもっとがんがん本を読むかと思いきや、実際にはさほど読めてはいないのでした。とにかく気持ちが落ち着かなくて活字に集中できなかったり、外出自粛が叫ばれていることを受けてネットで公開されたさまざまなコンテンツに食いついてしまったり。まさかこの時代に、世界中が翻弄されるようなこんな事態を経験するとは思わなかった。ここをご覧になっている皆さまもどうか、ご安全に。

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