2020年6月に読んだものメモ

  • ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』(訳:岸本佐知子/講談社,2019年7月/原書:Lucia Berlin "A Manual for Cleaning Women: Selected Stories" 1977, 1983, 1984, 1988, 1990, 1993, 1999)
     2015年に出た同名の短篇集に入っていた43の短編から、24篇を訳出したもの。すべて2004年に68歳で亡くなった著者本人の人生が題材にされている。ひとつひとつは短い物語で、そこだけを切り取れば作中でものすごく大きな転換を伴うドラマはなかったりもするのだけれど、波乱万丈で多面的な生涯を送った人なので、さまざまに特異なシチュエーションが次々と出てくる。そういうちょっとしたところが記憶に残ることってたしかにあるよね……というようなリアルさとユニークさが両立している情景描写の、細やかさ鮮やかさに引き込まれる。そして世間を渡っていくなかで、どこか歯車が噛み合わない乖離した感じと、ままならないけどままならないまま生きていく強さみたいなものが、共存しているところにも。

  • 三浦しをん『のっけから失礼します』(集英社,2019年8月)
     雑誌『BAILA』に2014年から2019年にかけて連載されていたエッセイをまとめたもの。書かれてある言葉だけを見るとちょくちょくご自分を下げる表現を入れることで笑いを取る方向に行ってるんだけど、楽しく親しみやすいばかりで「卑屈」な感じは皆無というのは、すごい文章技術なのでは? というようなことを考えながら読んでいた。
     でもたとえばさ、このかたは自分のだらしなさとかをすごいアピールするけど、手帳に前年12月のページは要らないから予定を書き込むのに翌年1月分のページのある手帳がほしい、という意見を主張してる回で、なぜなら12月に新しい手帳をおろしたくないからと書いてらっしゃるのなんか見ると、「おお! 区切りを大切にする、きっちりした人だ!」って思いますよね(いつも前年から新しい手帳に移行してて、新しい年に合わせて新品をとかまったく発想になかった自分が恥ずかしい)。
     ハマったものに対する愛の炸裂具合の表現も強くて素敵。古くからのお友達との親しい交流がずっと続いているところや、こういう雑誌連載のなかで実家のご家族にずばっとツッコミ入れられる関係にも心がほんわかします。


  • コリン・ブッチャー『モリー、100匹の猫を見つけた保護犬』(訳:杉田七重/東京創元社,2020年2月/原書:Collin Butcher "Molly & Me" 2019年)
     ペット捜索専門の探偵社所属の探知犬モリーについて相棒の人が語ったノンフィクション。ちなみにエピローグの時点で発見済みの猫は74匹だ(原題は猫の数には触れてませんが)。でもまあこのペースでお仕事していたら本書が出版された頃には余裕で100匹超えていたでしょう。
     読む前は、タイトルだけ見て安直に犬は鼻がいいから猫も探せるんだなーなんて思ってましたが、そんな単純な話ではなかった。専門家にも猫を対象とした探偵犬なんてありえないと切り捨てられるなか、すごく才能のある犬との出会いおよび不屈の精神があって初めて実現したのが、この最強の信頼でつながるペット探偵コンビなのだ。さまざまな背景がありそれぞれにかけがえのない失踪ペットと飼い主のエピソードが出てきます。彼らに親身になって寄り添い、再会のために尽力する著者の真摯な姿勢も素晴らしい。
     出版社のウェブマガジンに、モリーの写真とか動画へのリンクとかあるので見てください……。


  • 岸本佐知子『ひみつのしつもん』(筑摩書房,2019年10月)
     漠然とした共感も覚えるような日常的な話題が、どんどん煮詰められて最終的にはこの著者の脳味噌からしか出てこない具体的ななにかの話になっている疾走感が好き。年賀状が返送されて称号がもはやスリではなかったり。「ぬ」が世界征服を目指したり。
     あとがきに雑誌『ちくま』でのエッセイ連載が18年目と書いてあって、もうそんなに! と、びっくりしましたが、たしかに自分の読んだもの記録メモを見ても、シリーズ1冊目を13年前、2冊目を8年前に読んでいるのだった。これからもずっと続けてほしいです。


  • 北大路公子『いやよいやよも旅のうち』(集英社文庫,2020年4月)
     旅嫌いを自認する非行動派の著者が、編集者による企画に従い、一道五県で自発的には絶対にやろうとしなかったであろうような体験をする。私自身がとてもめんどくさがりで出不精な小心者なので、これ全部やりきったんだ、すごいなあ、と感心しきりです。つらつらと語られる億劫さ、往生際の悪さ、そしてぬぐえぬ不安、そこから時折繰り出される発想の飛躍。何度かぷっと笑ってしまいつつ、身につまされもしてどきどき。いや、私がこの状況に置かれたらもっとずっと悲惨でうしろ向きな結末を迎えそうな気がするうえ、それをひとさまに楽しく読ませる文章に仕上げることもできないだろうから、共感などおこがましいのですが。
     (初出『小説すばる』2017年5月号〜2019年11月号)


  • 獸木野生『PALM 42 Task VII』(新書館,2020年6月)
     ああ、ジョゼが……。そしてジェームスがアフリカに拠点を移す道筋がいよいよはっきり見えてきた。この「Task」のエピソードも7冊目に入りましたけど、30年くらい前に作中で明かされた最期に向かって彼が淡々と歩んでいくのを読者はなすすべもなく見守る感じ。

  • 荒川弘『銀の匙 Silver Spoon』第15巻(小学館,2020年2月)
     うっかりタイミングを逃して読むのが遅くなってしまった最終巻。ついに大学受験、そして卒業。いつもなんかしら不憫な事態に見舞われる八軒くんをはじめ、みんなそれぞれにわちゃわちゃとしながら、当初の予定とは違うこともありつつ落ち着くところに落ち着いて。さまざまなかたちで、若者が現実を見据えることと、夢を持ちそれをかなえていくこととを両立させていく過程を詳細に見せていただきました。そしてそういう姿勢が、次の若者の後押しにもなっていく。みんながんばれー! という気持ち。

  • ひかわきょうこ『彼方から』(白泉社・マンガPark版/底本:花とゆめコミックス,1992年12月〜2003年4月〔全14巻〕)
     アプリの期間限定無料公開で。15年くらい前に単行本で読んでるので、再読です。いまではラノベなどで定番の、異世界転生ものなんですが、ヒロインが転生後も、数奇な運命を背負いつつ本人は特別な力を得たりはせず、地道に現地の言葉をこつこつと覚えていったりする描写が丁寧。主人公は普通の女の子だけど、自分にできる精一杯を常に模索している。セーブしない。ためらわない。とにかく、受け入れてくれた集団のなかで自分だけが特殊技能を持たないと分かっていても、自分にできることはなんでもやる。前向き。こう、出会う人、出会う人みんなに好かれることに、説得力がある。こういう人ですよね、最終的に強いのは。そして、運命として外部から提示されたのとは別に、自分の意志で選び取れる道がきっとあるというメッセージ。
     改めていま読むと、とにかく画力がすごかったんだなあ、と感嘆。アクションシーンがやたらとかっこいいね。構図とか、アングルが切り替わるシーケンスとか。ヒロインの顔の絵柄が、この当時としてもすでにわりと古い部類だったと記憶するクラシックな少女漫画の雰囲気なので(しかしとても可愛い)、目をくらまされそうになるけど、美醜にかかわらず老若男女すべてのキャラの造形がかちっと嵌っている。昔の少女漫画って、特に男性キャラについては、あんまり体格に気合を入れては描かれていないことが多かったという印象があるのですが、この人の描く身体的に優れているという設定の男性キャラクターは、しっかり骨格があってその上に筋肉が乗っているというのがはっきり分かる。それがちゃんと、古典的少女漫画ヒーローとしての美しさと両立している。

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